レビュー・紹介

あなたの脳は「怠け者」だ

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脳内には「二人のキャラクター」が同居している

イスラエル・アメリカ合衆国の心理学者、行動経済学者であるダニエル・カーネマンは、分厚い鈍器のような名著『ファスト&スロー』の冒頭で、我々の脳内劇場のキャストを紹介している。主役は二人。

  • 直感的で、瞬時に判断し、常に作動している「システム1(速い思考)」
  • 論理的で、計算高く、しかし極度の怠け者である「システム2(遅い思考)」

我々は普段、自分自身のことを「システム2」、つまり理性的で意識的な主体だと信じている。自分の意志でランチを選び、自分の意志で怒り、自分の意志で投資をしていると思っている。しかし、カーネマンが突きつける現実は残酷だ。我々の生活の9割以上は、自動操縦モードの「システム1」が勝手に決定しており、システム2は事後承認の判子を押しているに過ぎないのだ。

「システム2」は極度のサボり魔である

システム2は、複雑な計算や論理的な推論を行う能力を持っているが、とにかくエネルギーを使いたがらない。例えば「2+2」と聞かれれば瞬時に「4」と浮かぶ(システム1)が、「17×24」と聞かれると、システム2を叩き起こして計算させなければならない。多くの人は、この認知的負荷を嫌い、直感で適当な答えを出して済ませようとする。

この「認知的怠慢」こそが、数々の判断ミスの温床となる。システム1は騙されやすく、物語を作るのが大好きだ。断片的な情報から勝手にストーリーをでっち上げ、それを真実だとシステム2に報告する。サボり魔のシステム2は、裏取り調査もせずに「まあ、君が言うならそうだろう」と承認してしまう。これが、我々がフェイクニュースや詐欺師にコロリと騙されるメカニズムである。

直感は「自信満々」に嘘をつく

システム1の恐ろしいところは、自分が答えを知らない場合でも、「知っているつもり」にさせてしまうことだ。難しい質問(「この株は値上がりするか?」)をされた時、システム1は勝手に簡単な質問(「この会社のロゴは好きか?」)に置き換え、即座に答えを出す。これを「属性の置き換え」と呼ぶが、本人はそのすり替えに気づいていない。

だからこそ、専門家の「直感」や、自分の「勘」を過信してはいけない。カーネマンによれば、規則的な環境で長年訓練を積んだ(チェスや消防士のような)エキスパートの直感は信頼できるが、予測不可能な環境(株式市場や政治情勢)における直感は、単なる運や偏見であることが多い。自信の強さは、判断の正しさとは何の関係もないのだ。

怠け者のパイロットを叩き起こせ

では、この自動操縦の罠から逃れる術はあるのか。残念ながら、システム1の暴走を完全に止めることはできない。それは心臓の鼓動と同じで、生きている限り勝手に動き続けるからだ。しかし、重要な局面――大きな契約、投資、人生の岐路――において、「今、自分はシステム1の安易な物語に乗せられていないか?」と疑うことはできる。

月曜の朝、我々にできる唯一の抵抗は、意識的にシステム2を起動させることだ。「なぜそう思うのか?」「データはあるか?」「別の可能性はないか?」。あえて脳に負荷をかけ、汗をかかせること。直感という名の快適なオートパイロットを解除し、マニュアル操作に切り替える勇気を持つこと。それが、知性と呼ばれるものの正体である。

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