怒りに支配される脳をどう救うか【『Emotional Intelligence』2/6】
瞬時の怒りはどこからやってくるのか
日々の厳しい営業の最前線において、取引先からの理不尽な要求や、社内での心ない言葉に対して、反射的に声を荒らげてしまったり、攻撃的なメールを即座に返信してしまったりした経験はないだろうか。ほんの数分後にはなぜあんな態度をとってしまったのかと激しく後悔するにもかかわらず、その瞬間だけはどうしても自分自身をコントロールすることができない。
私たちは通常、自分の行動はすべて理性が統制していると信じ込んでいる。しかし、突発的な怒りやパニックに襲われているその瞬間、私たちの脳内では論理や理性が完全にシャットダウンされ、まったく別のシステムが運転席を乗っ取っているのである。この抗いがたい感情の爆発は、いったいどこからやってくるのだろうか。
論理の壁を突破する脳のハイジャック
『Emotional Intelligence』著者,心理学者ダニエル・ゴールマンは、この理性が吹き飛ぶ現象を「扁桃体ハイジャック」と呼んで詳細に解説している。人間の脳には、論理的な思考を司る大脳新皮質と、感情や生存本能を司る扁桃体が存在する。視覚や聴覚から入ってきた情報は、通常であれば思考のフィルターを通ってから感情へと伝わるが、緊急事態においてはそのルートがショートカットされるのだという。
つまり、脳がこれは脅威だと認識した瞬間、論理的な思考が追いつくよりも早く、扁桃体が強烈な警報を鳴らして身体を戦闘状態にしてしまうのである。人類が狩猟採集をしていた時代であれば、茂みから飛び出した猛獣に対して瞬時に反応するための優れた生存システムであった。しかし現代社会においては、取引先からの厳しい指摘や、予期せぬトラブルを命の危機と誤認し、このシステムが不要な暴走を引き起こしてしまうのである。
感情の暴走がもたらす最大の時間的損失
現代のビジネスパーソンにとって、この扁桃体ハイジャックは最も警戒すべきタイパの敵である。どれほど日々の業務を効率化し、数分や数秒の時間を節約して完璧な提案書を作り上げていたとしても、たった一度の感情の爆発がすべてを無に帰してしまうからだ。怒りに任せて破壊してしまった長年の取引先との信頼関係を取り戻すためには、数ヶ月、あるいは数年という途方もない時間的コストを支払うことになる。
厄介なのは、一度扁桃体に脳をハイジャックされてしまうと、冷静になれと頭で念じても無駄だということである。思考を司る大脳新皮質のシステムそのものがオフラインになっている状態では、論理的な自己説得はまったく機能しない。暴走した警報システムを強制終了させるためには、脳内でどうにかしようとするのではなく、まったく別のアプローチをとる必要があるのだ。
身体を動かし脳の支配権を奪い返す
第一の見出しで投げかけた、瞬時の怒りがどこから来るのかという問いに対する答えは、私たちの脳に深く刻まれた古代の生存本能の誤作動である。そして、扁桃体に乗っ取られた状態から脳の支配権を理性の側へ取り戻すための最も確実な方法は、論理ではなく身体からのフィードバックを利用することだ。深くゆっくりとした呼吸と、意図的な筋肉の伸縮によって、今は安全な状態であるというサインを脳へ物理的に伝えるのである。
そのための極めて実践的で洗練・体系化されたメソッドの一つが、ヨガである。怒りや焦りで呼吸が浅くなっていることに気づいたら、仕事の合間や一日の終わりに、自らの身体の動きと呼吸のみに意識を集中させる時間を作る。適度なグリップ力とクッション性を備えた高品質なヨガマットの上で静かにポーズをとる時間は、暴走した扁桃体を物理的に鎮め、エモーショナル・インテリジェンスを回復させるための最強の防衛策となるはずだ。
『Emotional Intelligence』シリーズ (全6回)




