他人の機嫌はあなたの責任ではない【『嫌われる勇気』3/6】
あの人が不機嫌なのは誰のせいか
職場で上司が不機嫌そうにしているとき、あるいは取引先が冷たい態度をとったとき、私たちは無意識のうちに自分のせいではないかと不安になる。何か失礼なことを言ってしまっただろうか、自分の提案が的外れだったのだろうかと頭を悩ませ、相手の機嫌を直すために必死に言葉を選んだり、先回りをしたりしてエネルギーをすり減らしてしまう。どれほど合理的に仕事を進めようとしても、この人間関係の摩擦による目に見えない疲労からはなかなか逃れることができない。
私たちは、他者と円滑な関係を築くためには、相手の感情に気を配り、空気を読むことが社会人としての当然のスキルだと信じ込んでいる。しかし、他人の顔色をうかがい、他人の感情まで自分のコントロール下に置こうとするこの態度は、結果としてあなた自身の精神を疲弊させ、さらには人間関係そのものを複雑にこじらせる最大の原因となっているのだ。
誰の課題かを見極める境界線
『嫌われる勇気』著者で哲学者・心理学者の岸見一郎およびライターの古賀史健は、アドラー心理学における最も重要な概念の一つである課題の分離を解説している。これは、私たちが直面するあらゆる問題について、それは最終的に誰が結末を引き受けるべき課題なのかという境界線を明確に引く思考法である。
同氏らによれば、あなたが最善の準備をして仕事の提案を行ったとき、それを高く評価するか、不機嫌に突き返すかは、完全に相手の課題である。あなたが他者の課題に土足で踏み込み、相手の感情や評価を無理やり変えようとするからこそ、対人関係のトラブルが生じるのだ。他者がどう感じるかは他者の課題であり、あなたにはコントロールできない。あなたにできることは、ただ自分の課題に集中し、自分ができる最善を尽くすことだけなのである。
他者の課題を切り捨てる冷徹な優しさ
この課題の分離という考え方は、冷酷で自己中心的なものに聞こえるかもしれない。他者が怒っていようと悲しんでいようと放っておけと言うのか、と反発を感じる人もいるだろう。しかし、他者の課題に介入しないということは、相手を見捨てることではない。むしろ、相手を自分とは違う一人の自立した人間として尊重し、相手の課題を奪わないという、極めて成熟した態度なのである。
ビジネスの現場においても、部下のモチベーションを上げるのは上司の課題ではない。上司の課題は働きやすい環境と明確な評価基準を提供することであり、そこでやる気を出すかどうかは部下自身の課題である。この境界線を引けない上司は、部下の感情まで自分の責任だと抱え込み、結果として過干渉になって組織の自律性を奪ってしまう。境界線を引くことは冷たさではなく、互いの自立を守る最も誠実な行為なのだ。
自分の課題だけに集中する勇気を持てるか
あなたが必死にうかがっているその相手の顔色は、本当にあなたが責任を負うべき課題だろうか。私たちが複雑な人間関係のストレスから解放され、ビジネスで真の成果を上げるためには、自分ではどうにもならない他者の感情からきっぱりと手を引き、自らの行動だけに百パーセントの責任を持つマインドセットが不可欠である。
自らの役割を明確にし、他者の感情に振り回されないための確かな実践書として、アドラー心理学の課題の分離を企業マネジメントに徹底的に落とし込み、感情ではなく役割とルールに集中することの重要性を説いた名著、安藤広大の『リーダーの仮面』へと手を伸ばしてみてはどうだろうか。他人の感情というコントロールできないものから手を放し、自分の課題だけに集中すること。その冷徹で優しい決断が、あなたの人間関係を根本から変えるはずだ。
『嫌われる勇気』シリーズ (全6回)




