レビュー・紹介

私たちが抱えるコンコルド効果への対処術

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美しき失敗の代名詞

鋭く尖ったノーズ、優雅なデルタウイング。それは単なる飛行機ではなく、冷戦時代の西側の技術力とプライドを具現化した芸術品だった。マッハ2で大西洋を横断し、ロンドンで朝食を食べてから、3.5時間後にはニューヨークで再び朝食を食べることができる。まさに魔法だ。

だが、この魔法には莫大な維持費という呪いがかかっていた。英国政府とフランス政府は、開発のかなり早い段階で、このプロジェクトが経済的に決してペイしないことに気づいていた。燃料効率は悪夢のように低く、ソニックブーム・騒音問題で就航できる路線は限られていた。

普通の経営感覚があれば、即座にプロジェクトを中止し、スクラップにするのが正解だ。しかし、彼らはそうしなかった。なぜか? それは「ここまで投資したのだから」という、あまりにも人間臭い、そして致命的な心理バイアスに囚われていたからだ。

彼らはさらに40年もの間、この美しい赤字垂れ流しマシンを空に飛ばし続けた。国民の税金をジェット燃料に変えて燃やし続けたのだ。これを経済学や心理学の世界では「サンクコスト(埋没費用)バイアス」、あるいは皮肉を込めて「コンコルド効果」と呼ぶ。過去に支払ったコスト(金、時間、労力)が惜しくて、将来の損失が見えているのに撤退できない状態のことだ。

私たちの人生も「コンコルド」だらけだ

他人事だと思って笑うことはできない。私たち自身のガレージやクローゼット、あるいは人間関係を見渡してみると、そこには小さなコンコルドが何機も駐機していることに気づくはずだ。

例えば、修理費がかさむ古い車。「去年ミッションを直したばかりだし、今手放すのはもったいない」。そう言って、私たちはまた車検を通してしまう。 例えば、全く着ていない高級スーツ。「高かったし、いつか痩せたら着るかもしれない」。そう言って、クローゼットの肥やしにし続ける。 例えば、得られるものが何もないどころかマイナスの多い交友関係。「昔からの付き合いだし、無下にはできない」。そう言って、貴重な休日を退屈な飲み会・交際に捧げてしまう。

これらは全て、過去の自分への義理立てに過ぎない。私たちはつい、「現在の価値」ではなく、「過去の出費」を見て判断を下してしまう。だが、『エッセンシャル思考』の著者のグレッグ・マキューンが指摘するように、過去に支払ったコストは、これからの人生には1ミリも関係がないのだ。重要なのは「今、この瞬間に、それが自分にとって不可欠か?」という一点のみである。

ゼロベースで問い直す勇気

では、どうすればこの強力な呪縛を解くことができるのだろうか? 本書の中で紹介されている最強のテクニック、それは「ゼロベース思考」だ。

マキューンはこう問いかける。「もし、まだこれを持っていなかったとしたら、今から金を出して買い直すか?」。

この問いは強烈だ。想像してみてほしい。もし記憶喪失になり、今の状態で目が覚めたとする。その故障ばかりする車を、今の値段で買い直すだろうか? その口うるさいだけの部下を、今から新規採用するだろうか? その終わりの見えないプロジェクトに、今から新たに参加するだろうか?

もし答えが「ノー」なら、それが真実だ。私たちはただ「持っているから」執着しているだけなのだ。これを「保有効果」とも呼ぶが、自分のものになった途端に、実際の価値以上にそれを高く評価してしまう人間の悲しい性である。

損切りは敗北ではない。それは出血を止め、残されたリソースを守るための高度な外科手術だ。コンコルドは確かに美しかった。だが、それは空を飛ぶよりも、博物館で静かに眠っているほうがふさわしい。私たちの人生という航空会社も同じだ。採算の合わない機体は、どんなに愛着があろうと手放さなければならない。そうして初めて、本当に飛びたい目的地へ向かう、新しい翼を手に入れることができるのだから。

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