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自転車メーカーに「販売拒否」された負け犬集団が、ツール・ド・フランスを制覇した理由【『複利で伸びる1つの習慣』1/3】

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なぜ「負け犬集団」がツール・ド・フランスを制覇できたのか

地味な努力を続けることで、人生が劇的に変わると言われても、なかなか信じられないものである。この問いに対し、『複利で伸びる1つの習慣』著者で習慣研究家・作家のジェームズ・クリアは、驚くべき事例を提示する。一部の自転車メーカーから否定的な評価を受けるほどだったチームが、わずか数年でツール・ド・フランスを制覇した話だ。

2003年、英国サイクリング界は100年近くも低迷を続けていた。オリンピックでの金メダルはわずか1個、サイクリング最大のレースであるツール・ド・フランスでは一度も優勝したことがなかった。この「負け犬集団」を再建するため、パフォーマンスディレクターとしてデイヴ・ブレイルズフォードが招かれる。彼の掲げた戦略は「限界利得の集積」というものだった。それは、あらゆる要素を1%ずつ改善するという哲学である。この一見些細なアプローチが、いかにして歴史的な成功をもたらしたのか、その秘密を掘り下げていく。

たった1%の改善が1年で37倍になる「複利」の法則

ブレイルズフォードの「限界利得の集積」戦略は、その名の通り、些細なことにも目を向けた。同氏とコーチ陣は、まずプロのサイクリングチームとして当然と思われる調整から始めた。自転車のシートを快適に再設計し、タイヤにアルコールを塗ってグリップを高めた。選手には電熱オーバーショーツを着用させ、理想的な筋肉温度を維持させ、バイオフィードバックセンサーを使って各選手が特定のトレーニングにどう反応するかを監視した。

しかし、そこで終わらなかった。同氏は見過ごされがちな領域にも1%の改善を探し続けた。マッサージジェルの種類を検証して筋肉の回復を早める、外科医を雇って選手一人ひとりに最も良い手洗いの方法を指導し風邪の予防に努める、選手に最適な枕とマットレスを特定する。さらには、チームトラックの内側を白く塗り、普段は気づかれないような小さなホコリを発見しやすくした。これらのホコリが、精密に調整された自転車の性能を低下させる可能性があったからである。

ジェームズ・クリアは、これらの小さな改善が積み重なることの効果を数学的に説明している。毎日たった1%ずつでも改善を続ければ、1年後にはその能力が約37.78倍になるという。これは、毎日1%ずつ悪化した場合に、ほぼゼロ(0.03倍)にまで落ち込むのと対照的だ。習慣とは、まさに自己改善の複利のようなものであり、その効果は日々の小さな変化では気づきにくいが、数ヶ月、数年といった期間で見ると、驚くべき結果をもたらすのである。

たとえば、飛行機がロサンゼルスからニューヨークへ向かう際、針路をわずか3.5度南に調整するだけで、ワシントンD.C.に着陸してしまう。このように、日常の小さな習慣におけるわずかな変化が、やがて人生の目的地を大きく変えることになるのだ。

成功は「潜在的可能性のプラトー」の先に訪れる

ブレイルズフォードが率いる英国サイクリングチームが結果を出し始めたのは、同氏が就任してからわずか5年後の2008年北京オリンピックだった。彼らは利用可能な金メダルの60%を獲得するという圧倒的な成績を収めた。さらに4年後の2012年ロンドンオリンピックでは、9つのオリンピック記録と7つの世界記録を樹立した。そして同年にブラッドリー・ウィギンスがツール・ド・フランスで英国人として初の優勝を飾り、続く数年間もクリス・フルームが何度も優勝を重ね、彼らのチームは2007年から2017年の10年間で、178の世界選手権、66のオリンピックまたはパラリンピック金メダル、5回のツール・ド・フランス優勝を達成したのである。

これらの劇的な成果は、日々の地道な1%の改善が蓄積された結果である。しかし、このような大きな変化は、すぐには現れないことが多い。ジェームズ・クリアは、この結果が出にくい時期を「潜在的可能性のプラトー」と呼んでいる。例えば、氷が摂氏25度から31度になっても溶けないが、32度になった途端に溶け出す現象のように、努力は蓄積されているが、ある臨界点に達するまでは目に見える変化がないのだ。竹が5年間地下で根を張り続けてから、わずか6週間で90フィートも成長する様子も同様の例である。

この「失望の谷」を乗り越え、プラトーを突破するまでには忍耐が必要となる。同著によると、サンアントニオ・スパーズのロッカールームには、社会改革者ジェイコブ・リースの「何も役に立たないように見えるとき、私は石工が岩を100回叩いてもひび一つ入らないのを見に行く。しかし101回目の打撃で岩は真っ二つになる。最後の打撃がそうさせたのではなく、それまでのすべての打撃がそうさせたのだと私は知っている」という言葉が掲げられているという。結果が出ない時期こそ、内面で力が蓄積されている期間なのだ。

今日の地味な1%の積み重ねが、数年後の自分を根本から変える

成功は、一度きりの劇的な変化から生まれるものではない。日々の習慣の産物であるとジェームズ・クリアは説く。良い習慣は時間を味方につけ、悪い習慣は時間を敵にする。日々の行動がわずかに良い方向へ傾くか、悪い方向へ傾くかで、数年後の人生は大きく異なるものになるだろう。

自己改善の複利は、生産性、知識、人間関係など、あらゆる領域で機能する。例えば、新しいアイデアを一つ学ぶだけでは賢者にはなれないが、生涯学習へのコミットメントは人生を変える。読むたびに新たな知識だけでなく、古いアイデアに対する異なる見方も開かれるのだ。私たちの脳は意識的な注意を集中できる問題が一つに限られているため、習慣によって認知的負荷を減らし、精神的な余裕を他の重要なタスクに割り当てることを可能にするのである。

今日という一日における地味な1%の積み重ねこそが、数年後の自分を根本から変える効果的な方法の一つだ。この複利の効果を理解し、小さな習慣を味方につけることで、誰もが自らの潜在能力を最大限に引き出すことができるだろう。

そうした習慣の重要性やその力をさらに理解を深めるための一冊として、『習慣の力』(チャールズ・デュヒッグ著)を手に取ってみてはどうだろうか。同著は、私たちの行動の裏にある習慣の科学を解き明かし、いかにして良い習慣を築き、悪い習慣を断ち切るかについて、具体的な洞察と事例を提供してくれるはずだ。

Kの視点

記事が扱ったブレイルズフォードの「限界利得の集積」は確かに鮮やかな導入だが、原書の第1章にはもうひとつ重要な論点がある。クリアーは「ゴールと системの違い」を明確に分けたうえで、「優勝を目指すという目標はチームが就任以前から持っていた」と指摘する。つまり英国チームを変えたのは目標の高さではなく、日々のプロセスを設計し直したことだ。記事のまとめは「1%の積み重ね」に収斂しているが、原書が強調したいのはその一段先——「目標を捨ててシステムに賭けよ」という、より挑発的なメッセージである。

1%複利の計算(1.01の365乗≒37.78)は視覚的にインパクトがあるが、批判的に見れば、これは純粋な数学的モデルであって現実の人間行動には当てはまらない面が多い。毎日ほぼ均一に改善し続けられる行動など、実際にはほとんど存在しない。クリアー自身も本書全体を通じて「習慣は本質的に非線形に定着する」と論じており、この数字はあくまでメタファーとして読む必要がある。数字を字義通りに受け取ると、「3ヶ月で変化が出ないのは努力が足りないから」という誤読を招く。

日本の文脈で考えると、「限界利得の集積」という発想はトヨタのカイゼン文化と重なる部分が大きい。ただしカイゼンは組織の仕組みとして制度化されているのに対し、本書のアプローチは個人の習慣設計に軸足を置く点で出発点が異なる。日本人読者がこの本を「カイゼンの個人版」として読み流すと、第2章以降で展開される「アイデンティティの変容」という核心——自分が何者であるかを書き換えることが習慣定着の本質だという議論——を見落とすことになる。 — K

『複利で伸びる1つの習慣』シリーズ(全3回)

ヘロイン中毒が「帰国」だけで治った理由。意志力は環境の前では無力だ【『複利で伸びる1つの習慣』2/3】
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努力は「直線」ではなく「曲線」で実る。失望の谷を越えるための物理学【『複利で伸びる1つの習慣』3/3】
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