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環境からの影響力

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1971年、アメリカ全土を襲った「ヘロイン・パニック」

歴史の針を1971年に戻してみよう。

当時、アメリカ政府と国民は、終わらないベトナム戦争以上に「ある事態」に震え上がっていた。それは泥沼化した戦地で、駐留米兵たちが水やガムのように手軽にヘロインを摂取していたことだ。実際、現地の兵士の35パーセントがヘロインを試し、20パーセントが完全な中毒者だったというデータがあった。

政府はパニックに陥った。「数千人もの麻薬中毒者が、国へ、街へ帰ってくる。」ニクソン大統領は慌てて対策本部を設置し、リー・ロビンスという研究者に追跡調査を命じた。その時は、誰しもが、兵士たちの帰国後のアメリカ社会が薬物汚染で崩壊することを覚悟していた。

予想外の帰結

ところが、ロビンスが弾き出したデータは、誰も予想しなかった衝撃的なものだった。帰国した兵士のなんと9割が、離脱症状に苦しむこともなく、一夜にして中毒からケロリと脱していたのだ。

通常、ヘロイン中毒患者の再犯率は90パーセントとされるが、彼らの再犯率はわずか5パーセント程度だった。彼らは高額なリハビリ施設に入ったわけでも、鋼の意志で耐え抜いたわけでもない。ただ「戦場」というストレスとヘロインに満ちた環境から、「母国の自宅」という平穏な環境へ物理的に移動しただけだった。

彼らを中毒にしていたのは薬物そのものではなく、「場所」だったのである。

環境があなたの反応を決める

ジェームズ・クリアは著書『Atomic Habits』において、この事例から人間に関する不都合な真実を突きつける。私たちが「自制心が強い」と崇める人々は、実は誘惑と戦ってすらいない。「自制心が高い人は、単に誘惑される状況に身を置く時間を減らしているだけだ」と著者は断言する。

人間の感覚受容体は約1100万個あるが、そのうち1000万個は視覚に捧げられている。だからこそ「目に見えるもの」が最強のトリガーになる。だが、勘違いしてはいけない。これは単に「目をつぶれば解決する」という話ではない。たとえ視覚を閉ざしたとしても、我々は「スマホの通知音」や「いつもの手触り」によって、同じように操られるからだ。視覚であれ聴覚であれ、外部からの「入力(環境)」こそが我々の行動を決める「操り人形師」なのである。

その点、我々は自由意志で生きているつもりになっているだけの、哀れな反応装置に過ぎないと言えてしまうかもしれない。

「環境の被害者」をやめ、「環境の建築家」になれ

だからこそ、環境に操られる「被害者」であることをやめ、自ら環境を作り変える「建築家」になるべきだ。

著者が言う「建築家」とは、自分の生活空間をデザインする支配者のことだ。悪い習慣を断つには「見えなくする(Make It Invisible)」のが最強かつ唯一の戦略だ。ダイエットしたければ菓子を買い置きせず、仕事をしたいならスマホを別の部屋に置くというふうに、自分の生活空間をデザインをする。

ベトナム帰還兵が証明したように、トリガーさえ引かれなければ、弾丸は発射されない。瞑想や根性論等で、意志力を鍛えるような無駄な努力をする暇があったら、部屋の模様替えをするべきだ。それが、怠惰な我々が勝てる唯一の方法なのだから。

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