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2012年の「大転換」。スマホが私たちの脳と子供時代をどう書き換えたのか【『不安の世代』1/6】

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2012年に発生した「メンタルヘルスの特異点」

もしあなたが、最近の若者(そして自分自身)のメンタルが以前より脆くなっていると感じているなら、それは気のせいではない。データがそれを証明している。

社会心理学者ジョナサン・ハイトは、最新作『The Anxious Generation(邦題:不安の世代)』において、世界規模のメンタルヘルス調査を行った。彼が提示するグラフは衝撃的だ。米国、英国、カナダ、北欧など、文化の異なる国々で示し合わせたかのように、2010年代初頭を境にうつ病、不安障害、自傷行為の発生率が急激に跳ね上がっているのだ。

グラフの形状は、なだらかな坂ではなく、急峻な「ホッケースティック曲線」を描いている。多くの専門家は、景気後退や気候変動への不安を原因に挙げた。しかしハイトはそれらをデータで否定する。景気が回復してもメンタルは悪化の一途をたどり、若者たちは連帯するどころか孤独を深めていたからだ。原因はもっと直接的で、物理的な「環境の変化」にあった。ハイトはこの現象を「The Great Rewiring(大配線変え)」と名付けた。

「遊びベース」から「スマホベース」へのOS置換

ハイトの分析によれば、この時期に人類の子供時代(そして大人の生活)の基盤OSが完全に入れ替わってしまったという。

  • Play-Based Childhood(遊びベースの子供時代): 2010年以前。現実世界で、肉体を使い、リスクを取り、対面で同期的にコミュニケーションする時代。あざや擦り傷を作りながら、他者の感情を読み取る「ソーシャル・スキル」を自然にインストールしていた。
  • Phone-Based Childhood(スマホベースの子供時代): 2010年以降。仮想世界で、肉体を使わず、安全だが、非同期的にコミュニケーションする時代。常に接続されながらも、他者の評価に怯え、孤独を感じている状態。

この「配線変え」を引き起こした決定的なトリガーは、2010年前後に実装された2つの技術的アップデートにある。

1つ目は、iPhone 4(高性能なフロントカメラとアプリと画面)の登場だ。これによりスマホは「世界を見る窓」から「鏡」へと変貌した。若者は常に自撮りをし、自分を「見られる客体」として管理し続ける高負荷なタスクを背負わされた。 2つ目は、「いいね!」機能の実装だ。これによりSNSは「連絡ツール」から「公開コンテスト会場」へと変わり、数値化された他者評価(ドーパミン)を求めて脳が暴走するようになったのだ。

我々は子供たちを「火星」に送り込んだ

ハイトの比喩は強烈だ。「我々は、Z世代を最初の被験者として、火星で育てる実験を行ったようなものだ」。

重力が弱く、放射線が降り注ぐ火星では、地球で進化した肉体は正常に育たない。同様に、肉体的な遊びや対面接触のないデジタル空間(火星)では、人間の社会脳は正常に機能しないのだ。 この火星移住実験は、誰の同意も得ず、なし崩し的に行われた。その結果、私たちは集中力を失い、理由のない不安に常に晒されることになった。これは個人の意志の問題ではない。環境設定(システム)の問題なのだ。

この「実験結果」をどう読むか

現在進行形で行われているこの壮大な実験の結果を知りたければ、ジョナサン・ハイトの著書『The Anxious Generation(邦題:不安の世代)』を読むほかない。

本書は単なるスマホ批判ではない。膨大な統計データと神経科学の知見を元に、なぜ私たちが集中力を失い、不安に苛まれるのか、その構造的欠陥を解き明かした「システム監査ログ」だ。ハイト博士の前著『社会はなぜ左と右にわかれるのか』が政治的分断のメカニズムを解明したように、本書はデジタルの分断を鮮やかに描き出している。

被害者であるZ世代だけでなく、スマホを手放せない私たち大人にとっても、現実世界(地球)への帰還ルートを示してくれる重要なガイドブックとなるだろう。

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