犯人捜しという思考停止の罠【『ファクトフルネス』4/6】
トラブルが起きると誰かを責めていないか
ビジネスの現場で重大なトラブルや失敗が発生したとき、組織の関心は真っ先に誰のせいでこうなったのかという一点に向かう。担当者の不注意、リーダーの判断ミス、あるいは取引先の怠慢。タイパを重視し、効率的な運営を求める組織であるほど、わかりやすい悪者を見つけ出し、その人物を処分したり謝罪させたりすることで、早急に問題を解決した気になってしまう。
しかし、特定の個人にすべての責任を押し付けて一件落着とする態度は、組織にとって極めて危険な兆候である。誰かを悪者に仕立て上げることは、感情的な溜飲を下げることには役立つかもしれないが、問題の根本的な原因を解明することには一切つながらない。一人の人間を排除したところで、同じ環境が放置されていれば、必ず別の誰かが再び同じミスを繰り返すことになるからだ。
犯人を見つけても問題は解決しない
医師のハンス・ロスリングは、著書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の中で何か悪いことが起きたときに、単純明快な理由を見つけたくなる人間の傾向を犯人捜し本能と呼んでいる。人は、複雑に絡み合った背景や見えにくい構造的な欠陥を理解しようとするよりも、誰かが意図的に悪いことをしたのだと考えるほうが、脳にかかる負担が少なく楽だからである。
この犯人捜し本能の最も恐ろしいところは、悪者を見つけた瞬間に、人々の思考が完全に停止してしまうことだ。誰かを責めることにエネルギーを費やしていると、ほかの原因を探らなくなり、将来同じ間違いを防ぐためのシステム作りに目が向かわなくなる。同氏が指摘するように、犯人を見つけることと、問題を解決することはまったく別の作業なのである。
悪者ではなくシステムに目を向けろ
本当に問題の再発を防ぎたいのであれば、悪いのは特定の人物ではなく、そのミスを誘発したシステムやルールにあるという前提に立つ必要がある。人が誤った行動をとってしまった背景には、スケジュールの無理な圧迫、情報共有ツールの使いにくさ、あるいは現場の声を拾い上げない組織の縦割り構造など、複数の要因が複雑に絡み合っているケースがほとんどだ。
優れたリーダーや組織は、トラブルが起きたときに犯人を探すのではなく、原因を探る。誰がやったのかという個人的な問いを、どのような構造的欠陥がこの事態を引き起こしたのかというシステムへの問いへと変換するのだ。個人の道徳心や注意力に依存するのではなく、ミスが起きるべくして起きた背景のメカニズムを解明し、ルールや環境そのものを設計し直すことでのみ、組織は本当の意味で進化することができる。
組織の構造を俯瞰する視点を持てるか
冒頭の問いに戻ろう。トラブルのたびに特定の個人を責め立てる行為は、あなたの組織から学習の機会を奪い、根本的な解決を先送りしているに過ぎない。私たちが真に建設的なビジネスを行うためには、自らの犯人捜し本能を自覚し、スケープゴートを求める感情を意図的に抑え込む必要がある。
部分的な対立や個人の責任追及を捨て、組織全体を複雑な相互作用のシステムとして俯瞰する技術を体系化した名著、ピーター・センゲの『学習する組織』は、その視点の転換を助けてくれる確かな一冊だ。誰かを責めるのをやめ、システムそのものに目を向けること。まずその思考のシフトを試みてほしい。問題の真の原因が見え始めたとき、それがファクトフルネスの始まりとなる。
『ファクトフルネス』シリーズ (全6回)




