世界を二極化して考える思考の罠【『ファクトフルネス』1/6】
あなたは世界を二つの極端な箱に分けていないか
現代のビジネス環境において、私たちは膨大な情報を効率よく処理するために、物事を単純な二つに分けて考える傾向がある。勝ち組と負け組、富裕層と貧困層、あるいは先進国と途上国といった具合だ。タイパを重視し、物事を素早く理解したつもりになるためには、この二項対立の図式は非常に都合が良い。複雑な現実を見なくても、どちらかの箱にラベルを貼って分類するだけで思考を完了させることができるからだ。
しかし、このような極端な単純化は、私たちが現実の社会を正しく認識する上で最大の障害となる。医師のハンス・ロスリングは、著書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の中で、人間が物事を二つのグループに分けないと気がすまないこの強い衝動を、分断本能と呼んで警戒している。世界が二つに分断されているという思い込みは、私たちの頭の中にある地図を現実から遠く引き離してしまうのである。
存在しない分断の間に何があるのか
かつての世界であれば、豊かな国と貧しい国という分け方も、ある程度の事実を反映していたかもしれない。しかし現在、その単純な二極化の世界観は完全に時代遅れのフィクションとなっている。実際の統計データを見てみると、人類の大半は極端な貧困でも極端な富裕でもない、中間の所得層に暮らしているのだ。私たちが勝手に引いた境界線の間には、もはや分断などは存在せず、巨大な中間層が広がっている。
同氏は、世界を途上国と先進国の二つに分けるという古い常識を捨て去り、人々の生活水準を四つのレベルで捉え直すことを提唱している。日々の移動手段が徒歩なのか、自転車なのか、バイクなのか、あるいは自動車なのか。この四段階のグラデーションで世界を見渡したとき、初めて私たちが生きていく現実の社会の正しい姿が浮かび上がってくる。両極端の例外ばかりに目を奪われるのをやめ、大多数の人がどこにいるかを探すことが不可欠なのだ。
なぜ古い世界観が致命傷になるのか
この分断本能による思い込みは、ビジネスの現場において取り返しのつかない判断ミスを生み出す。多くのグローバル企業は、豊かなレベル4の消費者ばかりをターゲットにし、レッドオーシャンの中で過酷な競争を繰り広げている。一方で、急速に生活水準を向上させているレベル2やレベル3に属する何十億人もの人々の存在を、いまだに貧しい途上国という古いレッテルを貼って見落としているのだ。
大多数の人間は貧しすぎて何も買えないという間違ったイメージにとらわれていると、これから爆発的に拡大する史上最大の市場を自ら手放すことになる。現実は、世界中のほぼすべての人が消費者になりつつあり、中間層の人口は今後さらに増大していく。メディアが報じる両極端のドラマチックな対立構造から離れ、事実を基に未来の顧客を発見できるかどうかが、これからの生き残りを左右するのである。
思い込みを捨てて現実の解像度を上げられるか
冒頭の問いに戻ろう。あなたはまだ、物事を二極化して考える古い思考の癖に縛られていないだろうか。ファクトフルネスを身につける第一歩は、話の中に分断を示す言葉が出てきたときに警戒し、重なり合わない二つのグループを連想させる情報に出会ったときは、実際には大多数の人が中間に存在しているという事実を思い出すことである。
粗い二項対立の思考を解体し、事実を深く細かく観察することで真の課題を見極める技術を説いた馬田隆明の『解像度を上げる』は、そのための確かな視座を与えてくれる一冊だ。物事を単純な二つに分けるのではなく、事実に基づきグラデーションで捉え直すこと。大雑把な分類に頼る己の癖を静かに修正し続ける姿勢だけが、分断という錯覚を打ち破り、誰も気づいていない本質的な価値を見つけ出すための確かな道標となるはずだ。
『ファクトフルネス』シリーズ (全6回)




