エコという名の巨大な穴
ブルジュ・ハリファを飲み込む穴
チリのアタカマ砂漠には、人類が掘った史上最大級の穴がある。 チュキカマタ銅山。その深さはあまりに深く、世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ(828m)」を放り込んでも、すっぽりと飲み込まれて見えなくなるほどだ。
この巨大な傷跡は、私たちが電気を愛すれば愛するほど、深く、広くなっていく。 100年前、ここで採れる岩石には高濃度の銅が含まれていた。だが今は、含有率がわずか0.6%程度の「ゴミのような石」を大量に掘り出し、砕き、溶かして、やっと一握りの銅を得ている。
「クリーン」の泥臭い現実
「脱炭素」「グリーンエネルギー」という言葉は美しい。だが、その実体は金属の塊だ。 風力発電のタービンを作るには鉄とコンクリートが、電気を運ぶには銅が、バッテリーにはリチウムが必要になる。 実際、電気自動車(EV)は、ガソリン車の数倍もの銅を使用する。ネットゼロ(実質排出ゼロ)を目指すなら、今後数十年で、人類がこれまでの歴史で採掘してきた以上の銅を掘り出さなければならないという試算さえある。
石油を燃やすのをやめる代償として、私たちは地球の表面をかつてない規模で削り取ることになる。 二酸化炭素という「見えないガス」の問題を解決するために、採掘という「目に見える破壊」を加速させる。それが、私たちが選んだ未来のトレードオフだ。
魔法の金属、銅
それでも私たちは掘るのをやめないだろう。 銅には魔法がある。磁石を銅の板の上に落とすと、まるで重力が消えたかのように、ふわリとゆっくり落ちていく(レンツの法則)。この電磁気的な特性こそが、発電機を回し、モーターを動かし、現代文明を動かしている魂だ。
「神の愛の次に偉大なものは、電気である」 かつてテネシー州の農夫はそう言った。その「偉大なもの」を手にするために、私たちは今日も地球に穴を穿つ。
今日のコツ:コンセントの向こう側を想う
スマホを充電する時、あるいはEVが静かに走り出す時、そのエネルギーがどこから来ているかを想像してほしい。 それは単なる「発電所」から来ているのではない。チリの砂漠に穿たれた巨大な穴、粉砕される岩石、そして汗と油にまみれた重機たちが、その「クリーンで静かな生活」を支えているのだ。
汚れることなしに、綺麗ではいられない。 その矛盾(パラドックス)を噛み締めながら、今日もスイッチを入れる。それが、物質世界(マテリアル・ワールド)に生きる私たちの作法だ。
