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ジムの会員権は「行かない人」が支えている。人間のバグを利用したビジネスモデル【『不道徳な見えざる手』2/6】

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「やる気」を前借りさせる詐欺

1月になると、スポーツジムの入会者が急増する。「今年こそは痩せるぞ」「週3回は通うぞ」。誰もがそう誓い、高額な「月額会員」や「年間パス」を契約する。清々しい決意の瞬間だ。だが、ジムの経営者たちは、バックヤードでほくそ笑んでいる。「どうせ来なくなるさ」と。

データによれば、ジム会員の多くは、実際に通った回数で割ると、1回あたりの利用料が高級ホテルのラウンジ並みに高騰している。都度払い(ビジター利用)にした方が遥かに安く済むにもかかわらず、なぜみんな月額会員になるのか? それは「楽観性バイアス」という脳のバグのせいだ。私たちは「今の自分」は怠け者でも、「来週の自分」は勤勉なスーパーマンになっていると信じたいのだ。ジム側はこの心理を熟知している。だから、入会時の手続きはやたらと簡単で、解約の手続きは死ぬほど面倒に設計する。入るときは「希望」を売り、出るときは「忘却」を待つ。これがサブスクリプション・ビジネスの本質だ。

「カモ」が優良顧客を支えている

さらに残酷な事実がある。もし、会員全員が毎日ジムに来たらどうなるか想像してみてほしい。ランニングマシンはすべて埋まり、ロッカーは溢れ返り、シャワー待ちの行列ができる。ジムは機能不全に陥り、経営は破綻するだろう。

快適なジム環境は、実は「会費だけ払って来ない人々」によって支えられているのだ。彼らは「幽霊会員(カモ)」と呼ばれる。真面目に通うマッチョたちは、家で寝ているあなたのお金で、空いているバーベルを持ち上げているのである。 これを経済学では「クロス・サブシディ(相互補助)」と呼ぶが、平たく言えば「搾取」だ。あなたは健康になるどころか、他人の健康のために金を貢ぐだけの存在に成り下がっている。自分の脂肪は減らず、ジムの経営者の財布だけが肥えていくシステムなのだ。

「場所」への依存が思考を停止させる

なぜ私たちは、これほど簡単な計算ができなくなるのか。それは「ジムという場所に所属している」という事実だけで、努力している気になってしまうからだ。 「会費を払っている」=「健康に投資している」という錯覚。これを「お守り効果」と呼ぶ。財布の中にジムの会員証が入っているだけで、運動していない罪悪感が少しだけ軽減される。

だが、市場はその罪悪感の軽減に「月額1万円」の値段をつけている。高すぎるお守りだ。 ノーベル経済学賞受賞者であるジョージ・アカロフとロバート・シラーの著書『不道徳な見えざる手』が警告するのは、私たちが自分の意志力を金で買おうとする時、必ず市場に足元を見られるということだ。「金を払えば意志が手に入る」という幻想こそが、最大の釣り針なのである。

データを支配する者だけが生き残る

この巧妙な「釣り」から抜け出す方法は一つしかない。「場所」や「契約」に頼るのをやめ、「事実(データ)」だけを信じることだ。私はジムには入らない、というか上記のようなルートをたどり脱会した。その代わり、今は自分の手首に投資する。それがスマートウォッチ『Garmin Forerunner』だ。

このスマートウォッチは、私が今日どれだけ動いたか、どれだけ心拍数を上げたかを、最大酸素摂取量はいくつか、睡眠時間はどれだけか、体力がどれだけ残っているか、冷徹な数字で突きつけてくる。「来週から頑張る」という言い訳は通用しない。Garminの画面には「今日の怠惰」がそのまま表示されるからだ。 月額費を払い続けることで得られるのは「会員である」という安心感だけだ。だが、Garminがくれるのは「自分自身の事実」だ。それと同時に、それの数字を基におすすめのワークアウトの提案もしてくれるため、運動を続けやすい。

何にせよ、カモ(Phool)として搾取される側から、データを支配して自らを律する側へ。まずはその無意味な「自動引き落とし」を止めることから始めよう。

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