金があっても「貧困」になる。100年時代を支配する「無形資産」とは【『LIFE SHIFT』2/6】
通帳の残高だけを見ていると、人生の破産者になる
「老後2000万円問題」という言葉に踊らされ、私たちは必死に預金残高を増やそうとする。しかし、『LIFE SHIFT』著者、ロンドン・ビジネス・スクール教授リンダ・グラットンは、この「有形資産(カネとモノ)」への偏重こそが、100年ライフにおける最大のリスクだと指摘する。なぜなら、どれだけ金があっても、それを楽しむ健康や、孤独を癒やす友人がいなければ、長い老後はただの「懲役刑」に変わるからだ。
同氏が重要視するのは、バランスシートには載らない「無形資産(Intangible Assets)」だ。
- スキルや知識といった「生産性資産(Productive Assets)」
- 健康や友人関係といった「活力資産(Vitality Assets)」
- 変化に対応する心理的柔軟性である「変身資産(Transformational Assets)」
これらは金銭で購入することが難しく、一朝一夕には手に入らない。カネはインフレで価値が下がるかもしれないが、信頼できる仲間や強靭な肉体は、どんな経済危機においてもあなたの生存を支える基盤となる。
「活力資産」という名のバッテリー管理
特に軽視されがちなのが「活力資産」、つまり心身の健康と良好な人間関係だ。20世紀型の人生では、現役時代に体を酷使し、引退後に病院通いをするのが常だった。しかし、80歳まで働く時代において、健康を害することは即ち「失業」と「貧困」を意味する。
「忙しいから運動できない」「仕事があるから友人と会えない」という言い訳は、自らの生命維持装置のバッテリーを捨てているようなものだ。同氏は、無形資産への投資は、有形資産への投資と同じくらい計画的に行われなければならないと説く。週末にジムへ行くことや、旧友と連絡を取ることは、決して「遊び」ではなく、将来のリターンを最大化するための極めて合理的な「投資活動」なのだ。
スキルは「賞味期限付き」の生鮮食品
「生産性資産(スキル・知識)」についても、認識を改める必要がある。かつては20代で学んだ知識で一生食っていけたが、技術革新のサイクルが早まった現代において、スキルの賞味期限は驚くほど短い。あなたの持つ資格や経験は、冷凍保存できる缶詰ではなく、放置すればすぐに腐る生鮮食品だと思わなければならない。
だからこそ、私たちは常に「学び直し(リスキリング)」を続け、資産を入れ替えなければならない。古いスキルに固執することは、カビの生えたパンを大事に抱えているようなものだ。痛みを伴ってでも古い知識を捨て、新しい知識を貪る姿勢だけが、あなたの市場価値を保つ唯一の防腐剤となる。
あなたの「バイタル」を可視化する
無形資産、特に健康という資産の厄介な点は、「目に見えない」ことだ。銀行口座のように残高が数字で見えれば危機感を持てるが、健康は失って初めてその価値に気づく。だからこそ、私は自分の活力資産を可視化するために『Oura Ring』のようなウェアラブルデバイスを使っている。
指にはめるだけで、睡眠の質、ストレスレベル、回復度が数値化されるこの小さなリングは、私の体という資本の「決算書」を毎朝突きつけてくる。「昨日は深酒をしたから回復スコアが低いな、今日は無理をせず早めに寝よう」。そうやって日々の行動を微調整することこそが、100年という長期投資を成功させる秘訣だ。自分の感覚など当てにならない。データという冷徹な鏡を持って初めて、私たちは自分の体を正しく愛することができるのだ。