目標を達成したのに虚しい理由【『もっと!』1/6】
念願の目標を達成したのになぜ満たされないのか
現代のビジネスパーソンは、常に未来の目標に向かって走り続けている。昇進して責任あるポジションに就くこと、目標の年収に到達すること、あるいは理想の大型プロジェクトを成功させること。私たちはタイパやコスパを極限まで高め、すべての時間とエネルギーをその目標達成のために投資している。そして、ついにその望みを手に入れた瞬間、誰もが最高の幸福感に包まれるはずだと信じて疑わない。
しかし、現実はどうだろうか。念願だったはずのポジションや報酬を手に入れた直後、一瞬の喜びはあっても、すぐに得体の知れない虚無感や退屈に襲われた経験はないだろうか。そして数日もすれば、また次のさらに高い目標を設定しなければ不安になり、心が休まることがない。この、どれだけ達成しても決して満たされることのない終わりのない渇望の正体について、私たちはあまりにも無自覚に生きているのである。
脳は手に入れることにしか興味がない
精神科医のダニエル・Z・リーバーマンとマイケル・E・ロングは、共著『もっと!』の中で、この虚無感の正体が私たちの脳内を満たす未来の報酬を追い求める物質の働きによるものだと解き明かしている。この物質は一般的に快楽物質と誤解されがちだが、その真の役割は快楽そのものではない。それは、まだ手に入れていない遠くのものを欲しがり、未来に向かって私たちを駆り立てるもっと欲しいという強烈な欲望のシグナルなのである。
同氏らによれば、この欲望の物質が最も強く分泌されるのは、目標に向かって努力している最中や、新しい可能性を想像して期待に胸を膨らませている瞬間である。しかし、いざその目標を手に入れてしまった瞬間、つまり未来が現在になった瞬間、その役割は完全に終了し、分泌はピタリと止まってしまう。この物質は手に入れるまでの過程にしか興味がなく、手に入れたものを味わい、楽しむ機能を持たないからだ。目標達成後の虚無感は、脳内の欲望のシグナルがシャットダウンされたことによる必然的な生理現象なのである。
未来への期待が今ここの喜びを奪っていく
私たちが真の幸福を感じるためには、未来を追い求める物質だけでなく、今ここにあるものを味わうための別の脳内物質、すなわち現在に満足と安らぎをもたらす物質を機能させる必要がある。これらは、今目の前にある食事の美味しさをじっくりと感じたり、家族や同僚との静かなつながりに深い感謝を抱いたりするための現在志向のシグナルである。
しかし、常に効率を求め、未来の目標に向けてスケジュールを最適化し続けている現代のビジネスパーソンは、脳が極端に未来志向の物質に偏った状態に陥っている。未来ばかりを見つめるシステムが暴走している状態では、現在の喜びを感じる脳の機能が完全に抑制されてしまうのだ。私たちがどれほど社会的な成功を収めても幸せを感じられないのは、環境のせいでも努力不足でもなく、単に今を楽しむための脳のスイッチをオンにする方法を忘れてしまっているからに他ならない。
終わりのない未来への渇望から降りられるか
冒頭の問いに戻ろう。あなたが次々と新しい目標を設定し、息つく暇もなく走り続けているのは、本当にあなたが望んだ豊かな人生なのだろうか。それとも、単に脳内の化学物質によってもっとを強要され、操作されているだけなのだろうか。私たちが終わりのない徒労感から抜け出すためには、この未来を追い求めさせる残酷なメカニズムを自覚し、未来への過剰な最適化を意図的にストップさせる必要がある。
オリバー・バークマンによる世界的ベストセラー『限りある時間の使い方』は、その終わりのない競争から降りるための確かな道標を与えてくれる。あらゆる時間を未来の目標のために効率化しようとする現代の病理を暴き、今ここにある有限な人生に静かに向き合うことを説いた一冊だ。あなたはまだ、蜃気楼のような未来の目標ばかりを追いかけ続け、目の前にある確かな喜びを犠牲にするつもりだろうか。
『もっと!』シリーズ (全6回)




