バフェットの相棒はどこへ?「急ぐ者」が死ぬ理由【『サイコロジー・オブ・マネー』3/3】
歴史から消された「第三の男」
投資の神様ウォーレン・バフェットと、その右腕チャーリー・マンガー。この二人は資産運用会社バークシャー・ハサウェイの象徴として世界に君臨しているが、かつて彼らには「リック・ギリン」という名の、同等の知能を持った三人目の相棒がいた。 リックは決して二人の部下ではなく、バフェット本人が「これほど頭の切れる男は他にいない」と認めたほどの天才投資家だった。40年前、彼ら三人は常にセットで投資判断を下し、共に莫大な富を築く「最強のトリオ」だったのだ。
だが、現在リックの名前を知る者は一人もいない。なぜ彼は歴史から消去されたのか。 バフェットはあるインタビューで、消えた相棒についてこう回想している。 「チャーリーと私は、いつか金持ちになれると知っていた。だから急がなかった。でも、リックは違った。彼は急いで金持ちになろうとしていたんだ」
マージン・コールという名の死神
1973年から74年にかけて、株式市場を未曾有の暴落が襲い、バークシャーの株価は70%も下落した。 自分の金だけで、借金することなく現物取引をしていたバフェットとマンガーは、ただ嵐が過ぎるのを待つことができた。精神的な苦痛はあっても、退場させられることはないからだ。 しかし、さらなる巨利を急いだ天才リックは違った。彼は借金(レバレッジ)を注ぎ込んでの信用買いで勝負に出ていた。
レバレッジでの信用買いは、上昇相場ではアクセルになるが、下落相場では処刑台のスイッチになる。 株価が下がり、借金の担保価値が割れると、「マージン・コール(追証)」という死神がドアをノックする。 「金を追加するか、株を売るか」どちらかを選ぶのだ。
現金が尽きたリックに選択肢はなかった。彼は借金を返すため、虎の子であるバークシャー株を一株40ドル未満という、今から見ればゴミのような価格でバフェットに売却し、戦場から強制退場させられた。 現在の株価が一株数十万ドルであることを考えれば、彼が支払ったのは数千億円の授業料だった。彼は「金持ちになる(攻め)」才能はあったが、「金持ちでい続ける(守り)」才能が欠けていたのである。
楽観主義とパラノイア
この事例から『サイコロジー・オブ・マネー』の著者のモーガン・ハウセルは、「金持ちになる方法」と「金持ちを続ける方法」は全く別のスキルであると説く。 前者はリスクを取り、大胆に攻める楽観主義が必要だ。だが後者はその真逆、パラノイア(偏執狂)的な恐怖心を持ち、いつか全てが吹き飛ぶかもしれないリスクに備える謙虚さが必要だ。
リックのように、たとえ99回勝っても、最後の1回で全てを失うような賭けをしてはいけない。ロシアンルーレットで5回引き金を引いて死ななかったとしても、それは「天才的なスキル」ではなく、単なる「運」に過ぎない。そして、運はいずれ尽きる。
複利という魔法は、長い時間をかけなければ発動しない。バフェットが世界一の富豪になれた最大の理由は、年利が高いからではなく、75年以上一度も死なずに市場に居続けたからだ。 カーレースに例えるなら、「To finish first, first you must finish(勝つためには、まず完走しなければならない)」という格言そのものだ。リタイアした人間に、表彰台に上がる資格はない。
最後の砦は「物理的」に守れ
市場の嵐から資産を守るのは「精神力」だが、物理的な嵐(火災や災害)から重要資産を守るのは「金庫」だ。 私が推奨するのは、米国で最も信頼されているブランド『SentrySafe(セントリー)』の耐火・防水保管庫だ。
権利書、パスポート、ハードウェアウォレット、そして家族への手紙。これらはクラウドには置けないし、銀行の貸金庫では緊急時に取り出せない。 手元にありながら、1時間の火災にも、24時間の浸水にも耐えうるこの無骨な箱こそが、あなたの「最後の砦(ラスト・リゾート)」となる。 「何があっても、これだけは残る」。その安心感があるからこそ、私たちは市場の変動に動じず、どっしりと構えていられるのだ。 パラノイアと言われようと構わない。賢明な投資家とは、攻める時も守る時も、常に最悪の事態を想定して鍵をかける者のことだ。