人類は「噛むこと」を忘れた。超高速で吸収されるカロリーが内臓を破壊する【『不自然な食卓』3/6】
赤ちゃん食を食べる大人たち
現代の食事風景を観察していて、奇妙なことに気づかないだろうか? 私たちは、驚くほど「噛んでいない」。ハンバーガー、カップ麺、ドーナツ、スナック菓子。これらは口に入れた瞬間、数回噛むだけで唾液と混ざり合い、ドロドロのペーストになって喉を滑り落ちていく。『不自然な食卓』の著者クリス・ヴァン・トゥレケンはこれを「大人のためのベビーフード」と呼ぶ。
UPFは、意図的に繊維質が破壊され、極限まで柔らかく加工されている。なぜなら、噛む必要がないほど、私たちは速く、多く食べることができるからだ。企業にとって、「噛む時間」は消費の障壁でしかない。彼らは私たちが呼吸をするように、無意識にカロリーを摂取し続けることを望んでいるのだ。私たちは便利さと引き換えに、動物としての基本的な機能を失いつつある。
「既消化」という暴力
本来、消化とは口の中で始まり、胃で時間をかけて行われるプロセスだ。固い食物繊維を噛み砕き、消化酵素と混ぜ合わせ、ゆっくりと栄養を吸収する。これによって、血糖値の上昇は緩やかになり、腸の奥まで栄養が届き、満腹ホルモンが分泌される。これは、燃費の良いエンジンのように、エネルギーを効率よく使い切るための精巧なシステムだ。
しかし、超加工食品(UPF)は製造工程ですでに細かく粉砕され、加熱処理されている。つまり「食べる前に消化(プレ・ダイジェスト)されている」状態なのだ。これを食べると、胃を素通りし、小腸の上部で瞬時に吸収される。血糖値はロケットのように急上昇し、インスリンが大量に分泌され、余ったエネルギーは即座に脂肪として蓄積される。食べているつもりでも、体にとっては「砂糖水を点滴されている」のと変わらないのだ。
アゴの退化と気道の閉塞
この「柔らかすぎる食事」は、私たちの骨格さえも変えつつある。硬いものを噛まなくなった現代人のアゴは、親世代に比べて明らかに小さく、貧弱になっている。これは進化ではない、退化だ。
アゴが小さいとどうなるか? 歯が並ぶスペースがなくなり(親知らずの問題)、舌の置き場がなくなり、喉の奥へと押し込まれる。これが睡眠時無呼吸症候群や、いびきの原因にもなっているという指摘がある。UPFは単に太るだけでなく、私たちの呼吸さえも妨げている可能性があるのだ。柔らかいパンや麺ばかり食べている代償は、あまりにも大きい。
野生のアゴを取り戻せ
この状況を打破するには、意識的に「硬いもの」を食べるしかない。私が晩酌の供に推奨するのは、「あたりめ(スルメ)」だ。添加物まみれの柔らかいグミやスナック菓子ではなく、ただの乾燥させたイカを噛む。
否応なく、飲み込むまでに数十回、数百回とアゴを動かす必要がある。この運動こそが、脳への血流を増やし、満腹中枢を刺激し、本来の消化リズムを取り戻させる。「噛む」という行為は、単なる摂食動作ではない。生きる力そのものだ。便利で柔らかい餌に飼い慣らされるな。あごを使い、疲れさせるのだ。自分の歯で噛み砕き、野生の力を取り戻そう。
ただ、何でも度が過ぎるとダメなように、スルメの食べ過ぎは、塩分過多、プリン体過剰摂取になるので要注意だ。