技術の波は決して止まらない【『The Coming Wave』1/6】
技術を制御できるという幻想
あなたは、今この瞬間にも加速を続けるAIや遺伝子工学といった先端技術を、人類が適切なルールや法規制によって完全にコントロールできると信じているだろうか。何らかの不都合や危険が生じたとき、スイッチをオフにするようにその進化を停止させ、社会への影響を封じ込めることができる。多くの人は、国家や国際機関が賢明な判断を下せば、技術の暴走は防げると漠然と期待している。しかし、数千年に及ぶ人類の歩みを振り返ったとき、その楽観的な前提はあまりにも脆い事実の上に成り立っていることが明らかになる。
『The Coming Wave』著者でDeepMind共同創業者のムスタファ・スレイマンは、人類の歴史は「技術の波」によって形作られてきたと指摘する。火の利用、車輪の発明、蒸気機関、そしてインターネット。これらの技術は、一度この世界に誕生してしまえば、例外なくあらゆる境界線を越えて拡散していった。ある特定の国や組織が独占し続けることも、その拡散を力ずくで阻止することも、歴史上ただの一度も成功したことはない。私たちは今、かつてないほど巨大で、かつてないほど制御困難な波を目の前にしている。
深層学習の誕生と黙殺された警告
二〇一〇年、著者はロンドンの小さなオフィスで、デミス・ハサビスらと共にDeepMindを創業した。当時の彼らが目指していたのは、汎用人工知能(AGI)という、あらゆる知的作業を人間と同等かそれ以上にこなすシステムの構築であった。まだAIが「冬の時代」と呼ばれていた頃、彼らが開発したアルゴリズムが、人間には到底不可能な速度で学習し、複雑なゲームを攻略していく様子を目の当たりにしたとき、著者は震えるような予感に襲われた。これは、社会の構造を根底から作り変える、破壊的な力になる。
著者はその後、シリコンバレーの名だたるCEOたちが集まる秘密の会議で、あるスライドを提示した。「ピッチフォーク(農具の熊手)がやってくる」というタイトルのそのスライドは、技術の急速な進化が引き起こす格差や社会的不安に対し、人々が暴徒となって蜂起するリスクを警告するものだった。しかし、当時の中枢にいた人々は、彼の警告を笑い飛ばし、単なる悲観論として片付けた。彼らは、技術は常に進歩であり、それは市場の力で解決できると信じ切っていたのだ。創業の地であるロンドンの路地裏から始まった、この「波」の予兆を、権力の中心にいる者たちほど見誤っていたのである。
人類を定義する波の不変法則
なぜ、一度生まれた技術を封じ込めることができないのか。それは、人類という種が「ホモ・テクノロジクス(技術的人間)」であることに由来している。石器時代から現代に至るまで、私たちは技術なしでは生存することさえできない存在として進化してきた。より便利で、より効率的で、より強力な道具が発明されたとき、それを手放すことは、生存競争における敗北を意味する。この不変の力学が、技術の拡散を物理的な法則のように確実なものにしているのである。
著者は、人類共通の記憶の中に残る「洪水神話」を引き合いに出し、これからの状況を説明している。世界中の文化圏に存在する大洪水の物語は、人間がコントロールできない巨大な自然の力によって文明が飲み込まれる恐怖を象徴している。AIと合成生物学という二つの汎用技術は、情報の処理能力と生命の設計図を同時に書き換えるという、歴史上最大の波となって押し寄せている。それは、ある日突然やってくる災害ではなく、私たちが自分たちの手で引き寄せ、もはや引き返すことのできない必然的な流れそのものなのである。
逃げ場のない未来に備えるための知性
技術は常に、物理的な境界や法律の壁を越えて浸透する。一つの場所で禁止されても、別の場所で開発が続き、やがてはインターネットを通じて全世界に数秒で共有される。私たちは、技術を「止めるか進めるか」という二択の議論に終始している暇はない。波がやってくることは確実であり、その波をどのように乗りこなし、あるいはその破壊的な影響を最小限に抑えるための「封じ込め」という困難な課題にどう向き合うかを考えなければならない。
この加速度的に進化する技術の波が、どのような未来を私たちにもたらすのか。その全体像を掴むための次の一冊として、レイ・カーツワイル著の『シンギュラリティは近い』を手に取ってみてはどうだろうか。技術が指数関数的に成長し、やがて人間の知性を超越するという彼の予測は、著者が警告する「波」の正体を理解するための数学的な裏付けを与えてくれるはずだ。私たちが立っている場所がどれほど不安定で、しかしどれほど可能性に満ちているのか。その現実を直視することから、新しい時代への適応が始まるのである。
『The Coming Wave』シリーズ (全6回)




