ドバイが砂漠で「砂」を買う理由。スマホもAIも「砂の城」に過ぎない【『Material World』1/3】
砂漠の国ドバイが「砂」を大量輸入する皮肉な現実
もしあなたが砂漠のど真ん中に住んでいたとして、わざわざ遠くから「砂」を輸入する必要があるだろうか、と考えるかもしれない。一見すると矛盾しているように思えるこの状況は、現代社会が依拠する物質の隠れた複雑さを示している。『Material World』の著者で経済・データジャーナリスト、Sky Newsエディターのエド・コンウェイ氏は、ありふれた物質がいかに私たちの生活を支え、地球に深い影響を与えているかを考察している。
アラブ首長国連邦のドバイは、世界有数の砂輸入国の一つである。砂漠に囲まれているにもかかわらず、ベルギー、オランダ、そしてイギリスなどからも砂を輸入しているのだ。この逆説の理由は、砂の種類にある。砂漠の砂は風によって粒子が丸く削られているため、建設に不可欠なコンクリートの骨材としては適さない。コンクリートを構成するためには、粒子が角張っていて互いにしっかりと結合する「建設用砂」が必要なのだ。
建設用砂は、現代都市の文字通りの基盤となる物質である。セメントや小石と水を混ぜればコンクリートとなり、砂利やアスファルトと混ぜれば道路になる。ドバイの象徴である超高層ビル、ブルジュ・ハリファも、その基礎は砂と砂岩の摩擦力によって支えられている。また、人工島パーム・ジュメイラは、ペルシャ湾の海底から浚渫された大量の砂を噴射し、振動圧縮して平らな固体表面に変えて作られた。これほどまでに砂がなければ、現代の都市環境は成立しないのである。
スマホもAIも太陽光パネルも「砂」でできている
砂の重要性は、建設用途にとどまらない。同氏によると、砂の主要成分であるシリコンは、現代世界のコンピューターチップを作る上で欠かせない材料である。スマートフォン、AIサーバー、データセンター、電気自動車の制御システム、そして太陽光パネルに至るまで、私たちのデジタルライフやグリーンエネルギー技術の多くは、このありふれた物質なしには機能しない。
シリコンチップの製造過程は、まさに物質がたどる「長い旅」の一つである。石英の塊として採掘されたシリコンの粒は、スマートフォンに組み込まれるまでに、幾度もの工程を経る。高温での熱処理を複数回受け、アモルファス(非晶質)な塊から、非常に純粋な結晶構造の一つへと変貌するのだ。その純度は、例えば半導体グレードのポリシリコンの場合、ごくわずかな不純物しか含まない高純度に達する。この並外れた純度と精巧なプロセスが、現代の高度な技術を支えているのだ。
かつてリビア砂漠で発見された天然ガラスは高い純度を誇っていたが、現代の半導体製造で求められる純度はそれをはるかに凌駕する。このように、目に見えない微細な世界で、砂の原子一つ一つが私たちのデジタル社会を形成している。私たちの手のひらサイズのデバイス一つ一つが、地球の奥深くから採掘され、複雑な旅を経てきた砂の結晶から生まれているという事実は、現代のテクノロジーがいかに物理的な基盤に深く根ざしているかを物語っている。
年間430億トン超を採掘する人類——その裏側にある「砂マフィア」の暴力と環境破壊
砂の消費量は、地球規模で著しい速度で増加している。同氏は2019年のデータから、人類が年間430億トンもの砂と砂利を地球の表面から採掘していることを指摘する。これは、地球の自然な侵食プロセスによって年間移動する堆積物の大幅に上回る量であり、人類が地球の地質学的な変化を自然よりもはるかに大きな規模で引き起こしていることを示している。
砂の採掘は、しばしば負の側面を伴う。世界の一部地域では、「砂マフィア」が存在し、シリコンの粒子の支配をめぐって争い、暴力や政治腐敗を引き起こしているという。例えばインドでは、中央政府や地方政府の統制が緩いため、「砂マフィア」が河床や海岸から違法に砂を採掘し、建設現場への供給チェーン、不動産開発業者、警察、さらには一部の政治家までも巻き込んだ深い腐敗のネットワークを形成している。
環境への影響も深刻である。メコンデルタのような地域では、過剰な砂の浚渫が河川の生態系に壊滅的な打撃を与えている。かつて豊かな土壌が広がっていた河岸は、砂が取り除かれたことで垂直の断崖となり、毎年広大な土地が失われ、海岸線は浸食されている。シンガポールは世界有数の砂輸入国であり、埋め立てによる国土拡大を続けているが、その結果、多くの砂を供給してきたインドネシアでは、国土の一部である島々が失われ、海上国境にも影響が出ていることが報告されている。砂の需要の影には、目に見えない環境破壊と社会問題が広がっているのだ。
1年に全人類史を上回る資源を採掘する現代社会の「重さ」
私たちは「脱物質化された世界」に生きているという幻想を抱きがちである。アプリやネットワーク、オンラインサービスといった無形のものが価値の多くを生み出していると教えられている。しかし同氏は、この見方に対して強い疑念を投げかける。物理的な世界こそが、他のすべてを支えている基盤であるというのだ。社会ネットワークから金融サービスに至るまで、ほとんどすべての活動は、それを可能にする物理的インフラストラクチャと、それを動かすエネルギーに完全に依存している。
2019年には、人類が地球の表面から採掘した物質の総量が、有史以来から1950年までに採掘された合計量を上回ったという驚くべき事実を同氏は提示する。そして、この状況は近年毎年続いている。この数字は、私たちがどれほど膨大な物質を地球から引き出しているかを示している。
現代社会は、気候変動への対策として「脱炭素化」と「グリーン化」を推進している。しかし皮肉なことに、電気自動車、風力タービン、太陽光パネルといった再生可能エネルギー関連の技術は、短中期的に見ればこれまで以上に大量の物質を必要とする。化石燃料への依存度を下げようとすればするほど、リチウム、銅、鉄、砂といった鉱物の採掘量は増加する傾向にあるのだ。この事実は、私たちが直面するサステナビリティの課題が、単にエネルギー源の転換にとどまらない、より根源的な「物質の消費」に関わる問題であることを示唆している。
持続可能な未来のために。デジタル世界の「重さ」を知ることから始まる
私たちの暮らしを支えるデジタルテクノロジーの進化は目覚ましい。しかし、その背景には、ドバイの建設現場の砂から、スマートフォンの頭脳となるシリコンチップの原料まで、地球の奥深くから掘り出された膨大な物質の存在がある。私たちは、無形のデジタル世界に慣れ親しむあまり、それが物理的な「重さ」によって成り立っていることを忘れがちである。
同氏は、この目に見えない物質世界とのつながりを再認識することこそが、真のサステナビリティを追求するための出発点だと訴える。無数のサプライチェーンが織りなす複雑な現代経済において、個々の製品がどこから来て、どのように作られているのかを知ることは、私たちの未来を形作る上で不可欠な要素となるだろう。
そうした視点をさらに広げ、現代技術の根幹をなす半導体の歴史と地政学的な重要性を深く理解するための一冊として、『半導体戦争――世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(クリス・ミラー著)を手に取ってみてはどうだろうか。半導体がいかに世界経済と安全保障の要となっているかを詳細に解説しており、物質世界への理解を一層深めるきっかけとなるはずだ。
Kの視点
記事本文では「砂マフィア」が簡潔に触れられているが、原書が実際に描く暴力の構造はより具体的だ。インドの砂採掘をめぐる腐敗は中央・地方政府の規制の綻びから生じているとコンウェイは書くが、さらに深刻なのはメコンデルタの問題である。原書では、ベトナムの「米どころ」デルタで違法採掘が進んだ結果、かつて川岸だった場所が垂直の崖と化し、年間約2平方マイルの土地が消失、6省が行政上の緊急事態を宣言していると詳述している。毎日サッカーグラウンド1.5面分の海岸線が海に呑まれているという数字は、記事が提示した環境破壊の議論をはるかに上回る切迫感を帯びる。
著者の議論で見落とされがちな点は、「砂不足」の統計的な不透明さそのものだ。原書によれば、シンガポールが2000〜2020年に輸入したと申告した砂の量と、輸出国側が記録した量の間には3億2000万トンもの乖離がある。つまり私たちは「年間430億トン採掘」と大きな数字を語りながら、その全貌すら把握できていない。これは著者の「物質消費の過小評価」という主張を強化するが、同時にコンウェイ自身が依拠するデータの信頼性への問いでもある。砂問題を論じる言説全体が、記録されない採掘の上に成り立っているという逆説は、本書を読んで初めて実感できる。 — K