15ドルのドレスに潜む「奴隷」。なぜその服は水より安いのか【『ファストファッション』3/3】
15ドルのドレスはなぜ「水より安い」のか
私たちは、手頃な価格の魅力的な服を日々消費している。しかし、その「安さ」の裏には、一体どのような隠れたコストが存在するのだろうか。『ファストファッション クローゼットの中の憂鬱』著者でジャーナリスト・ファッション業界調査記者のエリザベス・L・クラインは、ファストファッションの驚くべき安さの背景にある、見過ごされがちな真実に迫る。一枚の服が、デザインから店舗に並ぶまでにどれほど多くの人々の手を経てくるのか。その過程で、誰が、どのような代償を払っているのか。消費者は、価格タグに書かれた数字だけではない「本当の値段」に、目を向ける必要がある。
月収43ドルの工場でつくられる服の現実
バングラデシュの首都ダッカにある縫製工場を訪れたエリザベス・L・クラインは、衝撃的な労働条件を目の当たりにする。同国における縫製工場の最低賃金は、2010年11月の引き上げ後でも月わずか43ドルに過ぎない。これは家族の基本的な生活を支えるには到底足りない金額である。多くの女性労働者が、この劣悪な賃金で1日12時間にも及ぶ長時間労働を強いられ、それでも食費すら賄えないという現実がそこにはあった。
労働者を保護するための「行動規範」を設ける西洋の大手ブランドも存在する。しかし、多くの工場は最低賃金以上の支払いを拒み、労働者たちは生活のために過剰な残業を強いられている。このような状況は、工場が厳しいコスト削減圧力と短納期に直面しているためだ。彼らは、低賃金の労働力なしには、ファストファッション業界が要求する目覚ましい低価格を実現できないのである。
アメリカの縫製業衰退と、途上国へのしわ寄せ
かつて、アメリカ国内の衣料品生産は盛んであった。1990年にはアメリカで消費される衣料品の約50パーセントが国内で生産されていたが、その割合は現在わずか2パーセントにまで激減している。これは、より安価な労働力を求めて生産拠点が海外へと移転したためだ。著者は、かつて活況を呈したニューヨークのガーメントセンターが、今や閑散としている様子も伝えている。
低賃金の国々への生産移転は、ファストファッション業界に莫大な利益をもたらした一方で、途上国の労働者たちに計り知れない負担を強いることになった。バングラデシュでは、構造的な脆弱性や安全対策の不備が常態化しており、2013年にはダッカ近郊のラナ・プラザビル崩壊事故が発生し、大勢の犠牲者を出した。同氏は、その数年前からバングラデシュの工場で取材を行っていた。このような悲劇は、企業の「倫理規定」や「社会責任プログラム」が、現実の労働環境改善にどれほど機能していないかを示している。
「安さ」の本当のコストは誰が払っているのか
価格がたったの15ドル、あるいはそれ以下のドレス。その「安さ」の本当のコストは、決して価格タグには表示されない。バングラデシュの工場労働者が受け取る月収43ドルというわずかな賃金は、その一端に過ぎない。環境負荷もまた、その大きなコストの一つである。繊維の生産から廃棄に至るまで、大量の水、エネルギー、有害な化学物質が使用され、地球環境に深刻な影響を与えている。
さらに、ファストファッションの台頭は、国内の製造業を衰退させ、熟練した技術を持つ労働者たちの職を奪ってきた。私たちは、安価な衣服を手に入れることで、一見お得な買い物をしているように感じる。しかし、その裏では、途上国の労働者が搾取され、地球環境が破壊され、自国の産業が失われている。「安さ」の代償は、結局のところ、弱い立場の人々や未来世代、そして私たち自身の社会全体が負担しているのである。
価格タグに書かれていない「本当の値段」を読む習慣を
私たちは、あまりにも長い間、衣服の「安さ」に魅了されてきた。しかし、その安易な消費がもたらす問題は、今や無視できないレベルに達している。私たちは、単に「流行のものを安く手に入れる」という消費行動から脱却し、衣服一つひとつが持つ「本当の値段」を理解する習慣を身につける必要がある。それは、製造過程で関わる人々の労働、使用される資源、そして環境への影響といった、目には見えないコストを考慮することである。
そうした視点を持つための補助線として、あらためて『ファストファッション クローゼットの中の憂鬱』(エリザベス・L・クライン著)を一読することをおすすめする。私たちは今、ファッションのあり方を根本から見直し、より持続可能で倫理的な選択をする転換期にいる。
そして、日々の生活の中で身につけるもの、例えば長く大切に使いたい革靴など、その手入れを通じて物の価値を再認識することも重要だ。「コロンブス 靴磨きセット シューケアセット」で、お気に入りの靴を丹念に磨き上げる時間は、衣服や持ち物に込められた物語を感じ、長く愛用する喜びを教えてくれるはずだ。
Kの視点
記事本文は「月収43ドル」という数字を衝撃的な事実として提示するが、原書はその背景にある構造をより精緻に描いている。著者クラインは原書の中で、バングラデシュの低賃金が単なる搾取の結果ではなく、MFA(多繊維協定)の段階的廃止とWTO体制のもとで「合法的に設計された」競争構造の帰結であることを示している。2005年にMFAが完全失効した後、中国産綿製品の対米輸出が年間1,000〜1,500パーセント規模で急増し、残存する生産拠点はより賃金の低い国々へとなだれ込んだ。「誰かが安さの代償を払っている」という記事の結論は正しいが、その「誰か」を工場労働者だけに限定すると、問題の射程を見誤る。
見落とされがちな論点がある。原書が明示するように、アメリカ国内の縫製業崩壊は移民労働者だけでなく、かつて中産階級を支えた熟練技術職の喪失でもあった。ニューヨークのガーメントセンターで稼働していた工場は、パターンメーカーや高度な手縫い職人を擁していたが、彼らの技術は「安さ」の追求の中で市場から締め出された。著者が指摘するように、アメリカ国内での生産を維持するブランドが「高級品」として再定義されざるをえない状況は、価格水準の崩壊がもたらした歪みであり、消費者の「選択」が産業構造を書き換えた逆説的な結果だ。
日本市場への適用を考えると、状況は単純ではない。日本の縫製産業もすでに壊滅的な縮小を経験しており、国内生産比率はアメリカと同様に数パーセント台に落ち込んでいる。しかし「長く使う」という衣服観が文化的に一定程度残存している点、リペア・リメイクサービス市場がアメリカより根付いている点は、本書の処方箋が相対的に受け入れやすい土壌を示している。問題は、その文化的下地が「安さ」の強烈な引力の前で実際に機能しているかどうかだ。 — K