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突出した才能が流行を生むという錯覚【『Revenge of the Tipping Point』1/6】

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才能が流行を生むという思い込み

あなたは、世の中に大きな流行やムーブメントを起こすのは、圧倒的な才能やカリスマ性を持った一人の天才であると信じていないだろうか。何か新しい行動や文化が社会に感染していくとき、私たちは常にその発火点となる特別な個人の存在を探そうとする。たしかに、魅力的な人物は人々の目を惹きつける。しかし、個人の突出した能力だけでは、社会を覆うような巨大な伝染を引き起こすことはできないという事実に、私たちはもっと自覚的になるべきである。

『Revenge of the Tipping Point/超新版ティッピング・ポイント』著者でジャーナリストマルコム・グラッドウェルは、二〇〇〇年に発表した前作『ティッピング・ポイント』で、流行を左右するのは少数の特別な個人(コネクター、メイヴン、セールスマン)であると説いた。本書は二〇〇〇年刊行の前著『ティッピング・ポイント』から二五年を経て著者自身が理論を修正・深化させた続編である。同氏は前作での自身の主張をいわば自己批判し、現代の社会操作(ソーシャル・エンジニアリング)が蔓延する世界において、流行の真の主役は個人ではなく「場所」であるという新たな視点を提示している。

ニューヨークで広がらなかった犯罪の種

この理論の転換を説明するために、同氏は一九五〇年代にニューヨークで暗躍した伝説の銀行強盗、ウィリー・サットンの事例を挙げている。変装の達人であったサットンは、一発の銃弾も撃つことなく鮮やかに銀行から大金を奪い去るある意味の”天才”であった。彼は生涯で数百万ドルを盗み出し、映画や小説のモデルになるほどのスター犯罪者となった。もし「魅力的な天才」が流行を生むのなら、当時のニューヨークはサットンに憧れた模倣犯たちによる銀行強盗の嵐に見舞われたはずだ。

だが、現実には何も起きなかった。サットンというこれ以上ない最初の感染者がいたにもかかわらず、銀行強盗というウイルスは当時のニューヨークという街には決して広がらなかったのである。彼がどれほど華麗に金を奪おうとも、それは一人の天才による孤立した事件に留まった。流行というウイルスが培養されるためには、個人の才能とは全く別の、特定の温度と湿度を持った「場所」という土壌が必要だったのである。

ロサンゼルスを強盗の都に変えた場所の力

では、ウイルスが爆発的に感染する条件とは何か。同氏は、サットンの時代から数十年後、一九八〇年代から九〇年代にかけてロサンゼルスで発生した、歴史上類を見ない銀行強盗のパンデミックを対比させる。当時のロサンゼルスは、アメリカ全土で起きる銀行強盗の四分の一が集中する異常な空間となっていた。その中心にいたのは、サットンのような孤独な天才ではない。「キャスパー」と「シードッグ」と呼ばれる若きギャングの二人組であった。

彼らは自ら銀行を襲うのではなく、地元のティーンエイジャーをリクルートし、現場へ送り出すというプロデューサーに徹した。結果として彼らはわずか四年間で一七五件もの銀行強盗を指揮し、世界記録を打ち立てた。この手法は瞬く間に伝染し、ピーク時のロサンゼルスでは一日に二八件もの銀行強盗が起きる事態となった。なぜ、ニューヨークで起きなかった流行が、ロサンゼルスだけでこれほどまでに猛威を振るったのか。それは当時のロサンゼルスの環境そのものが、銀行強盗という行動を肯定し、共有させる巨大な温床として機能していたからだ。私たちの行動を本当に決定づけているのは、個人の資質ではなく、私たちがどこに所属しているかという環境の力なのである。

感染を制御する環境の設計

“天才”が流行を作るという無邪気な思い込みを、ここで改めて問い直してほしい。あなたが今、自分自身の能力不足に悩んだり、組織の中で新しい試みが広がらないと焦っていたりするのだとしたら、それは個人の才能の問題ではない。あなたを取り巻くコミュニティや職場の環境そのものが、新しい行動の感染を拒絶するような設定になっているからだ。逆に言えば、私たちは自分が属する環境を意識的に選び、あるいはその環境のルールを設計し直すことで、好ましい行動の伝染を意図的に引き起こすことも可能になる。

ティッピングポイントは、決して偶然の産物ではない。私たちがどのようなウイルスを培養し、何を伝染させるかは、環境という目に見えない境界線によって規定されている。本書で著者が試みた理論の深化、すなわち「社会操作」の光と影をより深く理解するためには、その原点である前著『ティッピング・ポイント』を併せて読むことが欠かせない。二五年前、著者が流行のメカニズムとして何を提示し、それが最新作でどのように塗り替えられたのか。その理論の変遷を辿ることは、あなたが周囲を巻き込み、変化の連鎖を起こすための確かな一歩となるはずだ。

『Revenge of the Tipping Point』シリーズ (全6回)

思考はコミュニティに感染する【『Revenge of the Tipping Point』2/6】
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流行は少数の模倣者が爆発させる【『Revenge of the Tipping Point』3/6】
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三分の一が動けば世界は変わる【『Revenge of the Tipping Point』4/6】
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環境があなたの行動を自動的に決定する【『Revenge of the Tipping Point』5/6】
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流行の設計者になる【『Revenge of the Tipping Point』6/6】
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