流行は少数の模倣者が爆発させる【『Revenge of the Tipping Point』3/6】
流行は多数決ではなく少数が作る
あなたは、世の中の大きな流行やトレンドが、多数の「普通の人々」が少しずつ行動を変えることで徐々に広がっていくものだと考えていないだろうか。私たちは民主主義的な感覚から、社会の変化は多数決のように、マジョリティの緩やかな動きによって形成されると思い込みがちである。ビジネスにおける製品の普及や、新しいライフスタイルの定着なども、大多数の消費者が納得して初めて成り立つと信じている人は多いはずだ。しかし、現実の社会的伝染はそれほど均等には発生しない。特定の現象が爆発的に広がる転換点の裏側を覗き込むと、そこには私たちの常識を覆すような偏った力学が働いているのだ。
『Revenge of the Tipping Point』著者でジャーナリストのマルコム・グラッドウェルは、二〇〇〇年に発表した前著『ティッピング・ポイント』では「コネクター」や「メイヴン」という特別な個人が流行を広げると説いた。しかし本書ではさらに一歩踏み込み、流行を爆発させる「過剰模倣者(スーパースプレッダー)」という存在に光を当てる。同氏によれば、ある行動や現象が制御不能なレベルにまで拡大するとき、そこには多数の普通の人間ではなく、異常な熱量で他者の行動をコピーし、周囲に撒き散らす少数の特異な人々が必ず介在しているのである。
医療不正を爆発させた過剰模倣者
この少数の過剰模倣者がいかにシステム全体を汚染するかを示す象徴的な事例として、著者はフロリダ州マイアミで起きたフィリップ・エスフォームズによる大規模な医療不正事件を取り上げている。エスフォームズは、介護施設やリハビリテーションセンターからなる巨大なネットワークを構築し、健康な患者を施設間で循環させ、不必要な治療を施しては国に架空の請求を繰り返した。
彼の真の恐ろしさは単なる個人の強欲さにはない。彼はこの手口を自分だけの秘密にせず、マイアミ中の他のクリニックや医師たちに賄賂を配り、この不正なビジネスモデルを次々と「コピー」させていったのである。エスフォームズという一人の強力な過剰模倣者がハブとなり、不正というウイルスを周囲の医療エコシステム全体へと爆発的に感染させていった。マイアミが全米で突出した医療不正の温床となったのは、多くの医師が突然倫理観を失ったからではない。一人の特異なスーパースプレッダーが、その地域に不正の連鎖反応を引き起こす触媒として機能したからだ。
悲劇の連鎖を生む模倣のメカニズム
この過剰な模倣による連鎖反応は、人間の痛ましい行動においても確認されている。メディアが著名人の悲劇的な出来事を詳細に報じた後、同様の行動が連鎖的に増加するという現象だ。
長年、この現象は社会全体に悲観的な空気が広がるためだと考えられてきた。しかしデータを詳細に分析すると、メディアの報道に触れた大半の人は悲しみを感じるだけで、行動を起こすわけではない。報道に触発されて悲劇的な連鎖を生み出しているのは、社会のほんの一握りに存在する「他者の行動に過剰に影響を受けやすい模倣者」たちなのである。彼らはメディアが報じる詳細な状況や、境遇の似た人物の物語に強く共鳴し、その行動を自分の人生にそのままトレースしてしまう。ここでも、社会全体を揺るがすような連鎖反応を引き起こしているのは、マジョリティの動向ではなく、少数の過剰模倣者たちの存在なのだ。
組織を蝕むウイルスを断ち切るために
私たちが所属する職場やコミュニティにおいても、この過剰模倣者の力学は確実に働いている。チーム内に不平不満が蔓延したり、特定のルール違反が常態化したりしているとき、組織全体のモラルが低下していると嘆くのは本質を見誤っている。実際には、数人の熱狂的な過剰模倣者がネガティブな行動を率先してコピーし、周囲に撒き散らしているケースが大半だ。
あなたが組織のリーダーやメンバーとして現状の悪循環を断ち切りたいと願うなら、集団全体に漠然としたメッセージを発信するのをやめることだ。その代わりに、悪習の発生源となり、それを過剰に模倣して広げている少数のスーパースプレッダーを特定し、彼らの行動を環境から切り離すアプローチをとらなければならない。人間がなぜ他者の行動につられ、集団の中で特定の行動を模倣してしまうのか。そのメカニズムを深く理解するための次の一冊として、ロバート・チャルディーニ著の世界的名著『影響力の武器』を手に取ってみてはどうだろうか。社会的証明という無意識の模倣がいかに人間の行動を支配しているかを解き明かすこの本は、あなたの周囲に潜む過剰模倣者の存在を炙り出し、組織に広がるウイルスの連鎖を断ち切るための確かな防具となるはずだ。
『Revenge of the Tipping Point』シリーズ (全6回)




