「作る」のではなく「在る」。伝説的プロデューサーが明かす創造の源泉【『リック・ルービンの創作術』1/3】
ジャンルを超越する「仙人」が語る、創造の正体
リック・ルービンという男のプロデュース歴を眺めると、脳が少し混乱するはずだ。 初期のヒップホップ(Run-D.M.C.やビースティ・ボーイズ)を爆発的にヒットさせ、スレイヤーでスラッシュメタルを定義し、ジョニー・キャッシュを奇跡的に再生させ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやアデル、カニエ・ウェストの世界的大ヒットを生み出した。
ヒップホップからカントリー、メタル、ポップスまで、ジャンルなど一切関係ない。彼が触れると、そこから時代を変える「本物」が生まれる。そんな音楽界の生ける伝説である彼がついにその秘密を明かしたのが、名著『リック・ルービンの創作術(原題:The Creative Act: A Way of Being)』だ。
しかし、ルービンはその幻想を冒頭で粉々に砕く。彼によれば、自分は楽器の演奏もできず、ミキサーの操作もできず、特別な音楽的テクニックを持っているわけではないという。 そして何より、「私はクリエイティブな人間ではない」と卑下する読者に対して、それは決定的な勘違いだと断言する。創造とは、画家や音楽家といった「特定の職業の人だけの特権」ではない。今日の夕食の献立を新しくすること、部屋の模様替えをすること、人間関係の問題を解決する新しいルートを見つけること。これらすべてが、崇高な芸術活動と全く同質のクリエイションなのだ。
あなたは「作る」ために生きているわけではない
ルービンが本書で提示するのは、何かを効率よく「作る(Doing)」ためのメソッドではない。ただ世界に対して開かれた、創造的な状態で「在る(Being)」ための哲学である。
世界は常に、我々に向けて無数のシグナルを発している。光の変化、雑踏の音、会話の断片、感情のさざなみ。アーティストとは、職業のラベルではなく、それらの微細な情報に対して「受信モード(アンテナが立っている状態)」になっている人間のことを指す。
朝、窓を開けて風を感じた瞬間、その感覚を論理でブロックせずにただ受け入れたなら、あなたはすでにアーティストとして機能している。ルービンの仕事は、スタジオで音をいじることではない。アーティストたちがプレッシャーや自意識によって閉じてしまった「受信アンテナ」を再び開き、宇宙からの信号をキャッチできる純粋な状態に戻すことだった。彼はそれを、私たち一般人にも求めている。ただ、世界に対して心を開いていろ、と。
宇宙は決して「なぜ」を説明しない
現代人は、すべての物事に「理由」や「正解」を求めたがる。「この作品の意図は何か?」「なぜこの作業をするのか?」「それは効率的か?」。
しかし、ルービンは「宇宙は決して『なぜ』を説明しない」と冷徹に断言する。美しい花が咲くのに論理的な理由はなく、ただ咲いているだけだ。創造も全く同じで、論理的な説明や正当性はすべて後付けのノイズに過ぎない。重要なのは、自分の中にふと湧き上がってきた衝動やインスピレーションを、常識で判断せずにそのまま出力することだ。
現代社会は、効率や正解を過剰に重視するあまり、この「わけのわからない衝動」を無駄なものとして切り捨ててしまう。だが、歴史に残る偉大な作品や発明は、例外なく「理屈はわからないが、こうでなくてはならない」という直感から生まれている。 金曜の朝、理由のない好き嫌いや、根拠のない直感を信じてみてほしい。それが、あなただけの創造の源泉(ソース)にアクセスする唯一の鍵だからだ。
完璧主義を捨て、彼の「名盤」を聴け
我々の「受信アンテナ」を狂わせる最大の敵は、「良いものを作らなければならない」「他人に評価されなければならない」という自意識(エゴ)だ。 ルービンは、作品を「自分の一部」だと考えるのをやめろと説く。作品は、あなた自身ではない。あなたがたまたまキャッチした宇宙からの信号を、翻訳して出力しただけの日記のようなものだ。
この「作為を捨て、ただそこにある状態(Being)を出力する」という彼の哲学が、実際にどういう形(音)になるのか。それを頭ではなく肉体で理解するためには、彼がプロデュースした歴史的名盤のCDやレコードを実際に聴いてみるのが一番早い。
たとえば、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』。無駄な音の装飾をすべて削ぎ落とし、メンバー4人が一つの部屋で鳴らした「生のグルーヴ」だけをそのまま真空パックしたこのアルバムは、作為ゼロの圧倒的なエネルギーに満ちている。 あるいは、ジョニー・キャッシュの『American IV』。全盛期を過ぎた大御所から過剰な伴奏をすべて取り上げ、アコースティックギター1本と枯れた声だけで、人生の痛みと美しさをむき出しにした伝説の録音である。
評価への恐怖を手放し、ただ「器」となってシグナルを捕まえる。その極限の引き算から生まれた傑作群をBGMにしながら、あなた自身の内なる声に耳を傾けてみてほしい。失敗作など存在しない。あるのは、まだ完成していない無邪気な実験だけなのだ。
『リック・ルービンの創作術』シリーズ (全3回)

