優しいダメ出しが引き起こす悲劇【『異文化理解力』2/6】
厳しい指摘をオブラートに包んでいないか
ビジネスの現場において、部下や同僚のミスを指摘したり、改善を促したりする場面は日常茶飯事である。その際、私たちは相手の自尊心を傷つけないよう、無意識のうちに言葉を選ぶ。まずは相手の努力や良い部分を褒め称え、その間に少しだけ厳しい指摘を挟み込み、最後はまた前向きな言葉で励まして会話を終える。いわゆるサンドイッチ話法と呼ばれるこの手法を、私たちはビジネスにおける洗練された優しさであり、人間関係を円滑に保つための万国共通のマナーだと信じて疑わない。
しかし、良かれと思って行っているこの遠回しな指摘が、文化の異なる相手には全く別の意味として受け取られてしまうリスクを考えたことはあるだろうか。相手の感情に配慮して言葉を濁せば濁すほど、あなたが本当に伝えたかった改善のメッセージは相手に届かず、問題はいつまで経っても解決されない。私たちが配慮だと思い込んでいるその曖昧な評価の伝え方は、本当に相手の成長と組織の成果に繋がっているのだろうか。
伝え方の明瞭さと評価の厳しさは一致しない
『異文化理解力』著者でINSEAD客員教授のエリン・メイヤーは、文化によるネガティブ・フィードバックの伝え方の違いを明確な指標として可視化している。同氏の調査で明らかになった最も驚くべき事実は、普段のコミュニケーションの直接性と、批判的な評価を下す際の直接性は、必ずしも一致しないという点である。言葉を文字通りに受け取るローコンテキスト文化の人々が、批判に関してもストレートだとは限らないのだ。
その典型的な例がアメリカである。アメリカ人は普段、言葉の裏を読まない極めて直接的でクリアなコミュニケーションを好む。しかし、いざ他者のミスを指摘し、批判的なフィードバックを与える場面になると、彼らは一転して相手を褒め言葉で包み込む間接的なアプローチをとる。一方で、フランスやロシアのように、普段は行間を読むハイコンテキストな文化でありながら、仕事の評価となると容赦なく直接的で辛辣な言葉を相手にぶつける国も存在するのである。
褒め言葉の裏にある真の意図を読み解け
この評価に対する文化的な指標のズレを理解していないと、グローバルなビジネス環境では深刻なすれ違いが頻発する。例えば、アメリカ人の上司が日本人の部下に「君のプレゼンは素晴らしかった。ただ少しデータが足りない部分もあったね。でも全体的には最高の出来だ」と伝えたとする。部下は高く評価されたと喜ぶかもしれないが、アメリカ人上司の真意は、データ不足という致命的な欠陥を今すぐ直せという強い警告である可能性が高いのだ。
逆に、フランス人やオランダ人の上司から、他の社員がいる前でストレートに業務の欠陥を指摘された場合、多くの日本人は人格まで否定されたと深く傷つき、モチベーションを失ってしまうだろう。しかし彼らにとって、事実を客観的かつ直接的に指摘することは、誠実さの証であり、個人の人格を攻撃している意図は微塵もない。文化によって、批判という苦い薬を包む糖衣の厚さは全く異なるのである。
相手の文化の文脈に合わせて評価を調整できるか
あなたが丁寧に伝えたはずの改善要求が相手に響かず、同じミスが繰り返されているとしたら、それは相手の能力不足ではなく、あなたのフィードバックの伝え方が相手の文化の受信機に合っていないからではないだろうか。私たちが多様な価値観を持つメンバーを適切に導き、確実な成果を上げるためには、自分の文化の基準で相手の言葉を解釈する危うさを自覚しなければならない。
異なるバックグラウンドを持つ人々と深い信頼関係を築き、成果を最大化するための確かな実践書として、相手を思いやりながらも言うべきことを真っ直ぐに伝える技術を体系化した名著、キム・スコットの『Great BOSS(グレートボス)―シリコンバレー式ずけずけ言う力』へと手を伸ばしてみてはどうだろうか。相手の文化が批判をどのように扱うのかを見極め、時にはあえてストレートに、時には柔らかく言葉をチューニングすること。その知的で柔軟な態度の転換が、あなたのチームを真のプロフェッショナル集団へと進化させるはずだ。
『異文化理解力』シリーズ (全6回)




