地に足の着いたイノベーション
霞(かすみ)を食べては生きられない
すべてはクラウドにある。 私たちはいつの間にか、そんな毎日を当たり前に享受するようになった。音楽も仕事も、空に浮かぶフワフワした雲の中にあるのだと。だが、その実体のないクラウドという言葉が作り出した霞(かすみ)を食べて生きられるのは、伝説の中の仙人だけだ。
どれだけスマホが薄くなっても、どれだけ通信が速くなっても、私たちはデータを食べて空腹を満たすことはできない。私たちの命をつないでいるのは、画面の中のビットではなく、圧倒的な重量を持つアトム(原子)の世界だ。
嫌われ者の「4人の巨人」
現代文明を物理的に支えているのは、華やかなAI技術ではない。バーツラフ・シュミルが指摘する、セメント、鉄、プラスチック(合成樹脂)、アンモニア(化学肥料)という4つの地味な物質だ。
問題は、それらが悪だということではない。それらに必要な物質とエネルギーを忘れたまま、夢だけが語られることだ。
私たちが仰ぎ見るクラウドの正体は、地面にそびえ立つデータセンターという名の巨大な鉄筋コンクリート建築物に過ぎない。それは文明の基礎を形作るセメントと鉄という、最も重厚な物質によって支えられている。あなたが今握っているスマホの内部、回路を絶縁し、部品を固定しているのはプラスチックだ。そして何より、今日食べた食事のエネルギー源は、アンモニアがなければこの世に存在すらしていなかった。肥料がなければ、世界人口の半分は明日から餓死する。これが、デジタルな夢の裏側にある、重くて泥臭い真実だ。
クリーンな夢を支える化石燃料の熱
私たちは、スマートなデバイスやクリーンなエネルギーさえあれば、物質の呪縛から逃れられると錯覚している。だが、太陽光パネルを作るためにも、電気自動車のバッテリーを動かすためにも、結局は膨大な鉄とセメント、およびそれらを精錬するための化石燃料の熱が必要だ。
問題は、それを知らずに語ることだ。 知らないまま叫ばれる脱炭素やイノベーションは、物理法則ではなく願望に近い。足元を無視したまま語られる未来像は、物理的な裏付けのない、ただの空中戦に過ぎないのだから。
今日のコツ:地面を踏みしめる
画面の中のトラブルやSNSの反応に、重さはない。それらはあなたの指先を通り抜け、ただ神経を摩耗させるだけの幻だ。もしデジタルの軽さに酔って足元がふらつくなら、いま、自分の全体重を何が支えているかを確かめることだ。
5分でいい。イヤホンを外し、無機質なアスファルトの反発を足裏に感じて歩く。あるいは、アンモニアと太陽が凝縮された一杯のご飯を、腹に溜まるまで噛みしめる。その逃げようのない確かな反発こそが、どんな未来像よりも先に存在する現実だ。
