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才能はシステムの中で咲き誇る【『Hidden Potential』6/6】

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個人の努力には限界がある

私たちは往々にして、個人の強い意志や適切な努力さえあれば、どのような壁でも乗り越えられると信じている。たしかに、主体性などのキャラクタースキルを磨き、一時的な足場を利用することは成長の不可欠な要素である。しかし、現実の社会やビジネスの現場において、個人の力だけで到達できる場所には構造的な限界が存在する。どれほど優れた種を蒔き、懸命に水をやったとしても、土壌そのものが痩せ細っていたり、日光を遮るような環境になっていたりすれば、その花が完全に咲き誇ることはない。

『Hidden Potential』著者でペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラントは、個人の能力を真に解き放つためには、私たちを取り巻くシステムそのものを設計し直す必要があると主張する。同氏は、才能を測り、評価し、育成する枠組みが古いままであれば、多くの隠れた可能性は見過ごされたまま終わってしまうと指摘している。

才能を見出す評価基準の欠陥

多くの組織や教育機関は、過去の輝かしい実績やテストの点数という到達した高さだけで人材を評価している。アイビーリーグの入試や伝統的な企業の採用活動がその典型である。初めから恵まれた環境にいて高い成果を出した人間が優先的に選ばれ、より多くの資源を与えられる。しかし著者は、この選抜システムは致命的な見落としをしていると指摘する。真に評価されるべきは、現在の到達点ではなく、そこに至るまでにどれほど過酷な道のりを歩んできたかという移動距離である。

この評価基準の転換を見事に実践しているのが、NASAの宇宙飛行士選抜である。NASAは単なるエリートではなく、幾度も不採用になりながらそのたびにスキルを磨き直した者や、貧しい家庭から言語の壁を越えて這い上がってきたような、逆境を乗り越える力を持つ人材を高く評価する。最初から頂上にいた人間よりも、深い谷底から自らの足で這い上がってきた人間の方が、未知の困難に対してはるかに強い適応力を発揮するからである。システムが頂上の高さではなく登ってきた距離を測るようになったとき、隠れていた本物の才能が発掘されるのだ。

全員を引き上げるフィンランドの教育

では、一部の選ばれた人間だけでなく、集団全体の潜在能力を引き上げるシステムとはどのようなものか。著者はその理想的なモデルとして、世界トップクラスの学力を誇るフィンランドの教育システムを挙げている。多くの国が才能ある少数の生徒を早期に選別し、彼らだけに特別な教育資源を集中させるというアプローチをとっている。しかしフィンランドは、才能を特定の人間の専売特許とは見なさない。

フィンランドのシステムは、すべての生徒に優れた教師を割り当て、さらに同じ教師が複数年にわたって同じ生徒たちを持ち上がる手法を採用している。この構造により、教師は生徒一人ひとりの特性や学習のペースを深く理解し、それぞれの強みを引き出すための個別の足場を組むことができる。才能ある少数を引き上げるのではなく、誰一人として見捨てず、全員の底上げを図るシステム設計こそが、結果として国全体の圧倒的なパフォーマンスを生み出しているのである。

奇跡的な救出劇に見るチームの力

システムによって才能が引き出されるのは、平時の教育や採用に限った話ではない。二〇一〇年にチリの鉱山で起きた落盤事故は、地下深くに閉じ込められた三十三人の作業員を救出するという、誰もが不可能だと考えた絶望的な状況であった。この奇跡的な救出劇を成功に導いたのは、一人の天才的なリーダーのひらめきではなく、集団の知恵を最大限に引き出すために構築されたチームのシステムであった。

現場のリーダーたちは、厳格な階層構造を一時的に解体し、あらゆる立場の人間が自由に意見を言える環境を意図的に作り出した。その結果、経験豊富な専門家だけでなく、若いエンジニアや小さな企業の起業家からの斬新なアイデアが次々と採用され、不可能とされた救出用のドリルや通信機器が開発されたのである。地位や肩書きに関係なく、最も優れた解決策が自然に浮上するようなシステムを設計できれば、平凡な個人の集まりであっても、天才を凌駕するような集合知を発揮することができるのだ。

奪い合う世界から与え合うシステムへ

私たちが所属する組織や社会のシステムを、少数の才能を選別し奪い合うものから、全員の可能性を引き出し与え合うものへと変革すること。それこそが、予測不能な時代を生き抜くための確実な戦略である。あなたがもしリーダーやマネジャーの立場にあるのなら、目の前のメンバーの能力不足を嘆く前に、彼らの才能を押し潰しているシステムそのものに目を向けるべきだ。

このシステム設計によって人がいかに互いを高め合うかという深い洞察をさらに実務に落とし込むために、さらに深く学びたい方には、同氏の『GIVE & TAKE』が最良の次の一冊となるはずだ。知識や時間を与え合う利他的な行動が、自己犠牲で終わるのではなく、結果として組織全体と個人の双方に最大の利益をもたらすという事実が証明されている。個人の努力という枠を超え、与え合うシステムを構築する側に回ったとき、あなたの周囲には、これまで見えなかった無数の素晴らしい才能が咲き誇るはずだ。

『Hidden Potential』シリーズ (全6回)

才能より「どれだけ遠くへ来たか」【『Hidden Potential』1/6】
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