自立のための「足場」を組む【『Hidden Potential』4/6】
永続的な支援という罠
あなたは職場で後輩やチームメンバーが困難な課題に直面しているとき、どのような助け舟を出しているだろうか。相手が締め切りに追われていたり、手順がわからずに行き詰まっていたりすると、つい自分自身が作業を代行してしまったり、手取り足取り完璧な答えを教えてしまったりするマネジャーは多い。それは短期的な問題を解決し、プロジェクトを前に進めるためには手っ取り早い方法である。しかし、相手の成長という長期的な視点に立ったとき、答えをそのまま与える行為は支援ではなく、相手から思考する機会を奪う依存の強制に他ならない。いつまでも補助輪を外せない自転車のように、他者の介入がなければ成立しない永続的な支援は、個人の潜在能力を深く眠らせてしまう。
足場という概念と研究データ
『Hidden Potential』著者でペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラントは、他者の能力を真に引き出し、自立した学習者を育てるためには、永続的な支援ではなく「足場(スキャフォールディング)」というアプローチが必要であると説く。建築現場で使われる足場は、建物が自立して建つまでの間だけ組まれる一時的な構造物であり、工事が完了すれば跡形もなく撤去される。人間の学習や成長においても、この一時的であることが決定的な意味を持つ。
同氏は教育心理学における足場の有効性を示す研究データを紹介している。学習者に複雑な問題を解かせる際、すぐに正解を教えるグループと、一切のヒントを与えないグループ、そして問題解決のための枠組みや思考の手順(足場)だけを一時的に提供するグループを比較した調査がある。結果として、足場を与えられたグループは、その後の新しい未知の課題に対する正答率と自立的な問題解決能力が最も高く伸びた。彼らは与えられた足場を利用して自らの頭で思考するプロセスを構築し、やがてその足場なしでも同じ思考回路を再現できるようになったのである。
障害を乗り越えたミュージシャンの足場
この足場という概念がいかに劇的な成長をもたらすかを示す例として、著者はある聴覚に障害を持つパーカッション奏者の軌跡を紹介している。彼女は幼い頃に深刻な聴力低下に見舞われ、音楽の道を絶たれそうになった。しかし、彼女の教師は耳で聴こえないなら無理だと諦めることも、彼女の代わりに演奏してやるような過保護な支援をすることもしなかった。代わりに彼が提供したのは、音の物理的な振動を身体で認識するための緻密な足場であった。
教師は彼女に、教室の壁に両手を当てさせ、楽器を鳴らしてその振動の違いを感じ取る訓練を課した。音程によって壁から伝わる振動の部位や質感が異なることを、身体的な感覚として紐づけるための一時的な構造を作り出したのである。彼女はこの足場を利用して、音を耳ではなく全身で聴くという独自の知覚システムを構築した。そのシステムが完成したとき、壁という物理的な足場はもはや不要となり、彼女は世界的なソロパーカッショニストとして自立して大成することになる。教師の役割は、答えを与えることではなく、彼女自身が新しい能力を獲得するまでの一時的な橋を架けることだったのだ。
自分で足場を外す勇気
足場が本来の機能を発揮するためには、適切なタイミングで撤去されなければならない。足場に依存しすぎると、それは成長を促す道具から、前進を妨げる松葉杖へと変わってしまう。私たちは誰かに指導されるときだけでなく、自分自身で新しいスキルを身につけようとするときにも、この一時的な足場の構築と撤去を意識的に設計する必要がある。
初めは手厚いマニュアルやテンプレートに頼り、経験者の助言を仰ぐという足場を組むのは正しい戦略である。しかし、ある程度の手順を掴んだら、あえてマニュアルを手放し、補助輪を外して不確実な実戦へと身を投じなければならない。転ぶリスクを引き受け、自らの力だけで立とうとするその瞬間にこそ、潜在能力は大きく開花する。足場は自分を守るためのものではなく、より高みへと登った後に自らの手で解体するために存在しているのである。
集中力のための人工的な足場を作る
あなたが今、どうしても集中力が続かず、新しい学習や困難な業務から逃げてしまうのだとしたら、それは意志が弱いからではなく、取り組むための適切な足場が組まれていないからだ。意志の力という不確実なものに頼るのではなく、自分の行動を一時的に強制する物理的な構造を外部に設定してみるべきである。
そのための実践的なツールとして、TickTimeのような、直感的な操作で作業時間を区切ることができるポモドーロタイマーをデスクに導入してみてはどうだろうか。二十五分の作業と五分の休憩という厳格な枠組みを外部から強制することは、散漫になりがちな思考を目の前の課題に縛り付けるための強力な足場となる。初めはタイマーの力に頼っていても、そのリズムで作業をこなす訓練を繰り返すうちに、あなたの脳は深い集中のサイクルを内面化していく。やがてタイマーという外部の足場がなくても、自らの意思で瞬時に没入状態に入れるようになったとき、あなたは自分自身の潜在能力をひとつ解き放ったことになるはずだ。
『Hidden Potential』シリーズ (全6回)




