終わらないマルチタスクという幻想【『Better Way』5/6】
マルチタスクを有能さの証明にしていないか
ビジネスの現場において、いくつものプロジェクトを同時並行で進め、大量のメールを処理しながら会議に出席する姿は、有能で生産的なビジネスパーソンの象徴として扱われがちである。私たちは、一つのタスクの返事を待っている間に別のタスクに手をつけることで、時間を一秒たりとも無駄にしていないという達成感を得ようとする。
しかし、このようなマルチタスクの状態は、本当に組織の生産性を高めているのだろうか。現実には、手をつけてはいるものの、いつまで経っても完了しないプロジェクトの山が積み上がっていくだけである。私たちは、常に忙しく手を動かしている自分に酔いしれるあまり、仕事が完了して初めて価値が生まれるという根本的な事実から目を背けてしまっているのだ。
詰め込みすぎたシステムは完全に停止する
MITスローン経営大学院教授のネルソン・P・レペニングおよびドナルド・C・キーファーは、著書『There’s Got to Be a Better Way』の中で、工場の生産ラインにおける物理法則をホワイトカラーの仕事に当てはめ、マルチタスクの危険性を暴いている。システムの中に許容量を超える仕掛り品(WIP:Work In Progress)を押し込むと、流れがスムーズになるどころか、大渋滞を引き起こして全体の処理スピードが致命的に遅くなるという法則である。
同氏らによれば、新しい仕事を次々とシステムに投入し続けることは、渋滞している高速道路にさらに車を送り込むようなものである。タスクを切り替えるたびに私たちの脳は大きなエネルギーを消費し、集中力を再起動するための時間を無駄にする。結果として、すべてのプロジェクトの進行が遅れ、納期遅れを防ぐための緊急の火消し作業が新たに発生し、システム全体が完全に機能不全に陥ってしまうのだ。
始めることをやめ、終わらせることに集中せよ
この終わらない大渋滞から抜け出すための唯一の解決策は、システムの中に同時に入れられる仕事の数に厳格な制限を設けることである。新しいプロジェクトのアイデアを思いついたり、緊急性の低い依頼が舞い込んできたりしても、今手元にあるタスクが完了するまでは決して新しい仕事に手をつけてはならない。
ダイナミック・ワーク・デザインが求めるのは、いかに多くの仕事を同時に回すかではなく、いかに一つひとつの仕事を最速で出口へと通過させるかである。そのためには、始めることへの執着を手放し、終わらせることに全精力を注ぐ必要がある。次々と新しい仕事を受け入れるのをやめ、今手元にある仕事を最後まで見届けること。この単純なルールの徹底が、個人の疲労を激減させ、組織全体の生産性を劇的に向上させるのである。
幻想の効率性を捨てて一つの成果を出せるか
あなたがいくつものタスクを同時進行させているのは、本当に効率が良いからだろうか。私たちが真の成果を手にするためには、マルチタスク=有能という危険な幻想を完全に打ち砕き、仕掛り品を制限して一つのタスクを最後までやり切るマインドセットが不可欠である。どれほど多くの仕事に着手したかではなく、どれほど多くの仕事を完了させたかという指標にのみ、私たちの価値は宿る。
あらゆる仕事を同時にこなそうとするのは成功への最大の障害であると断言し、最も重要な一つのこと以外を容赦なく切り捨てる哲学を説いた名著、ゲアリー・ケラーの『ワン・シング』へと手を伸ばしてみてはどうだろうか。すべてを少しずつ進めようとすることは、効率を求めるこの時代において最も合理的に見える行為だ。しかしそれこそが、何一つ完了させられず、すべてを停滞させる最大の罠なのである。
『There’s Got to Be a Better Way』シリーズ (全6回)




