思考はコミュニティに感染する【『Revenge of the Tipping Point』2/6】
個人の信念はどこからやってくるのか
あなたは、自分の持つ価値観や信念、例えば健康に対する考え方やライフスタイルの選択が、完全に自分自身の独立した思考によって形成されたものだと信じていないだろうか。私たちは皆、十分な情報を集め、理性的に判断を下しているという自負を持っている。しかし、ある特定の考え方が特定の地域や集団にだけ異常な密度で偏在している事実を前にしたとき、その独立した思考という前提は大きく揺らぐことになる。私たちの内面にある確固たる信念は、実は私たちが物理的・文化的にどこに属しているかという環境によって、知らず知らずのうちに書き換えられているのだ。
『Revenge of the Tipping Point/超新版ティッピング・ポイント』著者でジャーナリストのマルコム・グラッドウェルは、二〇〇〇年に発表した前著『ティッピング・ポイント』で、コネクターやメイヴンといった特別な個人が流行を広げると説いたが、20年後に書き直した本書ではそれだけでは不十分だと著者は主張する。現代における思想や行動の爆発的な広がりを理解するには、個人の資質以上に、その思想を培養し、増幅させる場所の存在が不可欠なのである。私たちは何かを決断しているとき、個人の意志ではなく、所属する場所の群れの意志を代弁しているに過ぎないのかもしれない。
医療の常識を覆した地域格差
場所が人間の行動をどれほど強力に支配しているかを示す、医療における興味深い研究がある。医師のジョン・ウェンバーグが行った小地域変動に関する調査だ。彼は、同じような人口動態を持つ隣接した地域であっても、提供される医療の内容が全く異なるという事実を突き止めた。例えば、バーモント州のストウという町と、そこからわずか数十キロしか離れていないウォータベリーという町では、子どもたちが扁桃腺の摘出手術を受ける確率に劇的な差があった。ストウでは七〇パーセントの子どもが手術を受けていたのに対し、ウォータベリーではわずか二〇パーセントであった。住民の健康状態に違いがあったわけではない。ただ、その地域の医師たちの間で手術を推奨する文化が異なり、それが地域内に伝染していただけなのである。
この地域差は、人生の終末期をどう過ごすかという重大な局面にさえ影響を与える。ウェンバーグのデータによれば、ロサンゼルスに住む患者が人生の最期の二年間に医師の診察を受ける回数は一〇五回に上ったが、ミネアポリスに住む患者はわずか三六回であった。約三倍というこの差は、病状の違いではなく、それぞれの地域の医療コミュニティが共有する「信念」の差によるものだ。ロサンゼルスでは可能な限り多くの医療介入を行うという文化が定着しており、一方でミネアポリスでは自然な経過を見守るという異なる思想が支配していた。人間の命に関わるような医学的判断でさえ、普遍的な正解に基づくものではなく、その場所が持つ思想クラスターに強く依存しているのである。
思想を引き寄せ増幅させるコミュニティ
この信念の偏在と伝染は、一般の人々のライフスタイルにおいても全く同じように機能する。著者は、カリフォルニア州における子どものワクチン接種拒否の問題を例に挙げている。ある時期、ワクチンの安全性を疑い、接種を回避する親たちが急増した。興味深いのは、この接種拒否という行動が州全体にまばらに広がったのではなく、特定の教育理念を掲げるウォルドーフ校(シュタイナー教育)のコミュニティに集中していたことだ。
あるウォルドーフ校では、ワクチン拒否率が二二パーセントから四六パーセントという驚くべき数字に達していた。なぜ特定の場所にこれほど偏るのか。それは、自然派のライフスタイルを好む親たちが、自らの価値観に合う場所を選んで集まってきたからだ。しかし、重要なのはその後である。同じような傾向を持つ人々が一つの場所に集結することで、コミュニティ全体が巨大な共鳴室となる。最初は漠然とした不安だったものが、保護者同士の会話を通じて「ワクチンは避けるべきだ」という確固たる信念へと鍛え上げられ、コミュニティ内で一気に感染を引き起こしたのだ。場所は、同じ思想を持つ人々を引き寄せるだけでなく、その思想をさらに強化する培養炉として機能するのである。
属する場所を再設計する
あなたの今の思考や習慣は、本当にあなた自身のものだろうか。私たちが日々の生活の中で抱く信念や行動の選択は、ウォルドーフ校の親たちやロサンゼルスの医師たちと同様に、自分が身を置いているコミュニティの空気に深く染まっている。もしあなたが現状を打破し、新しい行動を起こしたいと願っているのなら、個人の意志の力だけで奮闘しても徒労に終わる可能性が高い。自分自身の内面を変えるのではなく、まずは自分が属している場所を移動するか、そのコミュニティの環境自体を設計し直さなければならない。
私たちが無意識のうちに周囲からどのような影響を受け、集団の中でどのように意思決定を歪められているのか。そのメカニズムを深く理解するための次の一冊として、ギュスターヴ・ル・ボン著の名著『群衆心理』を手に取ってみてはどうだろうか。人間が集団になったときに発揮する見えない力学を解き明かすこの古典は、あなたが今属しているコミュニティの真の姿を客観視するための鏡となるはずだ。自分がどのような思想のクラスターに身を置き、そこからどのような伝染を受けているのかに自覚的になったとき、あなたは初めて、自分自身の人生のコントロールを取り戻すことができるのである。
『Revenge of the Tipping Point』シリーズ (全6回)




