流行の設計者になる【『Revenge of the Tipping Point』6/6】
流行は自然発生するという幻想
あなたは、社会を席巻する流行や、人々の行動を一変させるような巨大なムーブメントが、時代の手によって偶然に引き起こされる自然現象だと考えていないだろうか。何か新しい製品が爆発的に売れたり、特定のライフスタイルが急速に浸透したりするとき、私たちはそれを「人々の自然な欲求の表れ」として無邪気に受け入れてしまう。世の中の巨大なトレンドは、自然の摂理のように抗えないものだと思い込まされているのだ。しかし、その背後には緻密に計算された意図が存在しているとしたらどうだろうか。
『Revenge of the Tipping Point』著者でジャーナリストのマルコム・グラッドウェルは、二五年にわたる社会的伝染の探求の終着点として、一つの重い結論を突きつけている。前著『ティッピング・ポイント』では「世界は少しの力で変えられる」と、小さな力学がもたらす希望を説いた。しかし本書の副題にある「Revenge(報復)」とは、その力が悪意ある設計者によって逆用されてきたという痛烈な告発でもある。本書の結論は、私たちが無自覚な被設計者の立場から抜け出し、意識的な設計者へと転換することを強く求めているのだ。
意図的に設計されたパンデミック
著者が社会操作(ソーシャル・エンジニアリング)の最も暗い事例として告発するのが、アメリカ社会を破壊したオキシコンチンによる深刻な薬物問題である。製造元のパーデュー・ファーマは、単に強力な鎮痛剤を開発し、市場に送り出したわけではない。彼らは、薬が爆発的に広がるための社会的伝染のシステムそのものを意図的に設計したのである。
彼らは影響力を持つ特定の医師たちを正確にターゲティングし、利益という強力なインセンティブを与えて伝染のハブに仕立て上げた。どのような地域で、どのような医師が、どのような患者を抱えているか。そのデータを緻密に分析し、薬を処方しやすい土壌を持つコミュニティから順にウイルスを放った。さらに、医療コミュニティにおける痛みの治療に関する新しい常識を植え付け、環境そのものを意図的に作り変えたのだ。この未曾有の問題は、予期せぬ医療上の事故などではない。社会的伝染の力学を熟知した企業によって、オフィスビルの一室で冷酷に設計された人工的なパンデミックであった。
受動態という言葉の欺瞞
この問題の責任を問われたとき、パーデュー・ファーマの幹部たちが用いた言葉遣いに、著者は決定的な欺瞞を見出している。彼らは自らの製品が引き起こした破滅的な状況に対して、「オキシコンチンの使用は、依存症と関連付けられている(has been associated with)」という受動態の表現を多用した。
受動態とは、行為の主体を隠蔽するための言語である。「私たちが問題を引き起こした」という能動的な事実から目を背け、まるでそれがどこか別の場所からやってきた不可抗力の現象であるかのように装うための巧妙なレトリックだ。社会を意図的に操作しながら、いざ問題が起きれば主体性を放棄し、環境や人々の責任にすり替える。この「受動態を使う者たちの罪」こそが、現代の社会操作に潜む最も深い闇である。誰かが設計した環境の中で、私たちがただ受動的に動かされている限り、この構造的な搾取から逃れることはできない。私たち自身もまた、日常生活の中で無意識に受動態を使っていないだろうか。「職場の雰囲気が悪くなっている」「新しいプロジェクトが進まない」と、まるで天候不良を嘆くように語るとき、私たちは自らがその環境を構築する主体であることを放棄しているのである。
自らの手で環境を再構築する
私たちは日々の生活の中で、気付かないうちに誰かが設計した伝染のネットワークに組み込まれている。SNSのタイムラインから、スーパーマーケットの商品棚に至るまで、私たちの選択は常に外部の設計者たちによって誘導されている。この事実から目を背け、与えられた環境の中で最適化を図るだけの人生は、見えない糸で操られる操り人形でしかない。私たちがすべきことは、自らの手で環境のルールを書き換え、自分たちのコミュニティにおける伝染の設計者になることだ。どのような価値観を持つ友人と付き合い、どのような物理的空間で仕事をするのか。それらの環境要素を一つずつ意図的に選び直すことが、設計者としての最初の一歩となる。
私たちが気付かないうちに、いかに外部の設計によって不合理な選択をさせられているか。そのメカニズムを理解し、設計された不合理から自由になるための次の一冊として、ダン・アリエリー著の『予想どおりに不合理』を手に取ってみてはどうだろうか。誰かの悪意ある設計に飲み込まれる前に、自分の周囲にある環境を注意深く見上げ、そこに流れる空気を自分の手でデザインし直すこと。二五年にわたる探求の末に著者がたどり着いたこの重いメッセージを、今こそ私たちが実践する時である。
『Revenge of the Tipping Point』シリーズ (全6回)




