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築地はなぜ世界最大の魚市場になったのか【『スシエコノミー』2/6】

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築地市場は、なぜ世界中の人々を魅了し続けたのだろうか

魚介類に特化した世界的な流通拠点が東京にあることを、多くの人が知っている。朝早くから活気に満ち、熟練の職人たちが最高の食材を選び出す場所。その独特のシステムは、いかにして築き上げられてきたのだろうか。『スシエコノミー』著者でジャーナリストのサーシャ・アイゼンバーグは、その問いに対して、日本の食文化の象徴とも言える「寿司」を切り口に、グローバルな海産物経済の裏側を深く掘り下げていく。築地市場(現在は豊洲市場へ移転)は、単なる魚市場ではなく、世界中の食文化を支える巨大なハブとして機能してきた。その複雑なシステムと、そこに息づく「職人技」の重要性を、同氏は鮮やかに描き出す。

築地が築き上げた、世界をつなぐ流通システム

旧築地市場は、かつて世界有数の水産物卸売市場として知られ、その取引量は膨大なものだった。毎日未明から行われるマグロのセリは圧巻で、国内外から集まったプロの買受人たちが、一匹一匹のマグロを吟味し、瞬時の判断で競り落としていく。そこには、ただ新鮮な魚を扱うだけでなく、世界中から集まる多様な魚介類を適切に評価し、再び世界へと出荷する、洗練されたグローバルな流通システムが存在した。世界中の漁港から直接空輸される魚もあれば、日本の漁船が遠洋で獲った魚が水揚げされる場所もあった。築地は、まさに世界中の「海」と日本の「食卓」を結びつける、かけがえのない結節点だったのである。

成田空港が「日本最大の漁港」と呼ばれる逆説

『スシエコノミー』では、日本の卓越した物流インフラが、どのように魚介類の流通に貢献しているかについても触れられている。特に興味深いのは、「成田空港が日本最大の漁港である」という逆説的な表現だ。これは、世界中の高級魚が飛行機で迅速に運ばれ、鮮度を保ったまま日本の市場に届くことを示唆している。鮮度が命である寿司ネタをはじめとする魚介類にとって、航空輸送は不可欠な手段だ。港で水揚げされる従来の漁業だけでなく、空路を通じて世界中の新鮮な魚が集められることで、日本の市場は常に多様で高品質な食材を提供し続けることができた。これは、寿司という料理が求める鮮度と、日本の流通技術の高さを示すものだ。

仲卸業者たちの「目利き」と暗黙知が市場を支える

築地(豊洲)市場の心臓部をなすのが、仲卸業者たちの存在だ。彼らは、セリで競り落とされた魚介類をさらに細かく仕分けし、寿司店や料亭、小売店へと流通させる役割を担う。このプロセスにおいて、彼らの長年にわたる経験と勘に裏打ちされた「目利き」の技術が重要となる。魚の鮮度、身質、脂の乗り具合などを瞬時に見極め、最適な価格で顧客に提供する能力は、熟練の職人芸である。こうした個々の仲卸業者が持つ暗黙知と専門性が、市場全体の品質と信頼性を保証し、世界中の料理人から多大な支持を得てきた理由の一つだ。彼らの存在なくして、日本の魚食文化は成り立たないと言っても過言ではない。

「人の目利き」という非効率がもたらす価値

グローバル化が進み、あらゆる分野で効率化とIT化が推進される現代において、築地(豊洲)市場が世界でも優れた品質を保ち続ける背景には、単なる技術革新だけではないものがある。同氏が『スシエコノミー』で示唆するように、そこには長年の経験と勘に基づいた「人の目利き」という、ある意味で非効率とも言えるアナログな技術が、市場の核をなしている。魚の価値を最終的に見極めるのは、人間の五感と深い知識に他ならない。この「非効率」とも思える人間的な要素こそが、並外れた品質と信頼性を生み出す源泉であり、日本の食文化を豊かにする重要な鍵なのである。

そうした視点を持つための補助線として、市場のダイナミズムを食卓で感じたい、あるいは日々の食卓に新鮮な海の幸を取り入れたいと考えるならば、「豊洲市場直送 海産物」を手に取ってみてはどうだろうか。築地の魂を受け継ぐプロの目利きによって選ばれた海産物が、あなたの食卓を豊かに彩るはずだ。

Kの視点

記事本文は「目利き」という暗黙知の価値を称えるトーンで締めているが、原書第2章が描く築地の実態はもう少し複雑だ。仲卸のハルオ・マツイが競りで行うのは、職人的な審美眼だけでなく、対面する買い手・売り手の心理を読む情報戦でもある。競り開始前にマツイが仲卸仲間に「2,500円でどうか」と非公式に打診するシーンが原書に詳しく描かれており、著者アイゼンバーグはこれを「インフォーマルな保険システム」と呼んでいる。価格の不確実性をリスクとして搾取するのではなく、参加者全体で分散させるための慣行だという指摘は、「人の目利き」という美談に回収されがちな市場の本質を鋭く突いている。

原書がさらに興味深いのは、この「信頼のネットワーク」が実は極めて脆いという裏面を示している点だ。築地の競りは東京市場の価格をニューヨークのフルトン・フィッシュ・マーケットやパリ郊外のランジスへファックスで伝播させる機能を持つ。つまり「目利きの暗黙知」は閉じた職人世界の美徳ではなく、グローバルな価格形成装置の中核に組み込まれている。豊洲移転後、その装置が同等の権威を維持できるかどうかは、原書が書かれた時点から既に問いとして宙吊りになっており、本記事が「築地の魂」という言葉で括るには、構造的な変化を見落としすぎている。 — K

『スシエコノミー』シリーズ(全6回)

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