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組織の停滞を文化のせいにするな【『LOONSHOTS』1/6】

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イノベーションが枯渇するのは文化のせいなのか

かつては常識を覆すような革新的なサービスを生み出していた企業が、規模が大きくなるにつれて急激に保守化し、つまらない改善案しか出せなくなる現象は、ビジネスの世界において決して珍しいことではない。私たちはこのような組織の停滞を目の当たりにしたとき、その原因を大企業病という言葉で片付け、社員からベンチャー精神が失われたことや、事なかれ主義の文化が蔓延したせいだと結論づけてしまう。効率よく利益を上げようとするビジネスパーソンほど、組織の低迷はメンバーの意識やモラルの低下によって引き起こされると信じて疑わないのである。

しかし、少し立ち止まって考えてみてほしい。つい昨日まで情熱的に新しいアイデアを語り合っていた社員たちが、ある日突然、一斉に保守的で退屈な人間に生まれ変わってしまうことなどあり得るだろうか。個人の性格や能力が突然変化したわけでもないのに、組織全体の振る舞いだけが劇的に変わってしまうというこの矛盾は、単なる文化という曖昧な言葉では決して説明がつかない。

水が氷に変わるような組織の相転移を見極めよ

『LOONSHOTS<ルーンショット>』著者で物理学者・起業家のサフィ・バーコールは、この組織の突然の変質を、物理学における相転移という概念を用いて鮮やかに解き明かしている。相転移とは、例えば水が摂氏零度を境にして、突然硬い氷へと姿を変える現象のことである。このとき、水分子そのものの性質が変化したわけではない。温度という周囲の条件が変わったことで、分子同士の結びつきという構造が変化し、全体としての振る舞いが液体のそれから固体のそれへと劇的に変わっただけなのである。

同氏によれば、人間の集団である組織においても、これと全く同じ相転移が起きている。組織の規模がある一定の閾値を超えると、社員個人の性格や能力は何も変わっていないにもかかわらず、組織全体の振る舞いが、革新的なアイデアを愛する状態から、既存の権益を守る状態へと突然変異してしまうのだ。それは社員が保守的になったからではなく、規模の拡大に伴って組織のインセンティブ構造が変化し、新しい挑戦をするよりも社内政治で自分の立場を守る方が個人的に得をするように、物理的な力学が変化してしまった結果に過ぎないのである。

意識改革という無意味な精神論を直ちに捨て去れ

この相転移のメカニズムを理解していないと、私たちは組織を改革しようとする際に致命的な間違いを犯すことになる。多くの経営者やリーダーは、イノベーションが生まれなくなった組織に対して、社長の熱いスピーチを聞かせたり、オフィスの壁に挑戦せよというポスターを貼ったりして、必死に文化を変えようと努力する。しかし、これは氷の塊に向かって、もっと水のように流れろと説教しているのと同じくらい無意味な行為である。温度が零度以下であるという構造的な条件が変わらない限り、いくら氷に熱く語りかけても水に戻ることはない。

私たちが本当に目を向けるべきは、社員の意識や組織の文化という曖昧なものではなく、評価制度やインセンティブ、プロジェクトの承認権限といった、組織を形作る目に見える構造そのものである。新しいアイデアを提案して失敗したときのリスクが、成功したときのリターンを上回るような評価構造になっている限り、どれほど社員に挑戦を促しても誰も動くはずがない。組織の停滞を打破するためには、精神論への依存をきっぱりと捨て去り、社員が再び自由に動けるよう構造のパラメータを設計し直す、非常に冷徹なエンジニアリングの視点が不可欠なのである。

構造を設計し直してクレイジーなアイデアを育てられるか

あなたが今、自分のチームから新しいアイデアが全く出てこないと嘆いているのだとすれば、それは本当にメンバーのやる気がないからなのだろうか。それとも、新しい挑戦を無意識に罰するような、氷のように冷たく硬直した構造をあなた自身が放置してしまっているからなのだろうか。私たちが激しい変化の時代を生き抜き、真のイノベーションを生み出し続けるためには、失敗を個人の責任にしたり文化のせいにしたりする自己欺瞞をやめ、組織の力学を物理法則のように客観的に捉え直す視座の高さが求められている。

精神論による意識改革を諦め、組織という複雑なシステムそのものを構造的に設計し直すための確かな実践書として、物事の全体像を俯瞰し、真のボトルネックを見つけ出すシステム思考の決定版、ピーター・センゲの『学習する組織』へと手を伸ばしてみてはどうだろうか。文化を変えようとする無駄な努力をやめ、評価と報酬という構造のダイヤルを静かに回し直すこと。その科学的で冷静なアプローチこそが、あなたの組織に眠るクレイジーなアイデアを解き放ち、再び世界を驚かせるための確かな突破口となるはずだ。

『LOONSHOTS』シリーズ (全6回)

革新と安定の両立という幻想【『LOONSHOTS』2/6】
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社員数150人の壁を越えられるか【『LOONSHOTS』5/6】
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