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革新と安定の両立という幻想【『LOONSHOTS』2/6】

kotukatu
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革新と安定を同時に追い求めていないか

ビジネスの現場において、私たちは常に矛盾する二つの目標を同時に達成するよう求められている。一つは、既存の事業を効率化し、ミスなく安定した利益を生み出し続けることである。そしてもう一つは、常識を覆すような全く新しいアイデアを生み出し、次世代の成長エンジンとなる革新的なサービスを立ち上げることだ。効率よく成果を上げようとするビジネスパーソンであればあるほど、この二つの目標をひとつのチーム内で同時に達成しようと試みるはずだ。

しかし、既存の業務を完璧にこなす優秀なメンバーたちを集めて新規事業のアイデア出しをさせても、結局は現状の延長線上の無難な案しか出てこないという壁にぶつかった経験はないだろうか。ミスを許さない緻密な管理体制の中で、失敗を前提としたクレイジーなアイデアを育てようとすることは、ブレーキとアクセルを同時に踏み込むようなものである。私たちは無意識のうちに、水と油のように相反する価値観を、無理やり混ぜ合わせようとして組織を機能不全に陥らせているのである。

芸術家と兵士を同じ部屋に入れるな

『LOONSHOTS<ルーンショット>』著者で物理学者・起業家のサフィ・バーコールは、組織内で革新と安定を共存させるための絶対的な原則として、相転移の概念を応用したグループの分離を提唱している。同氏によれば、未知のアイデアを探求するグループを芸術家、既存の事業を確実に遂行するグループを兵士と呼ぶならば、この両者は物理的に、そして評価基準においても完全に切り離さなければならない。

水が液体であると同時に固体である氷になれないのと同じように、一つのチームが芸術家と兵士の両方の性質を同時に持つことは不可能である。芸術家には失敗を許容し、リスクを取ることを称賛する評価システムが必要だ。一方で兵士には、リスクを最小化し、納期と品質を厳守することを評価するシステムが必要となる。にもかかわらず、この異なるインセンティブを持つ両者を同じ部屋に入れ、同じ基準で管理しようとすれば、必ずどちらかの機能が死に絶える。だからこそ、まずは両者を完全に隔離することが、イノベーションの最初のステップとなるのだ。

隔離した両者を繋ぐ動的平衡の技術

しかし、ただ芸術家と兵士を分けるだけでは、組織は新たな危機に直面する。隔離された両者は必然的にお互いを理解できなくなっていくからだ。芸術家は兵士を融通の利かない官僚だと見下し、兵士は芸術家を利益を生まない道楽者だと非難するようになる。ここで必要となるのが、物理学で言うところの動的平衡という概念である。水と氷が共存する零度の世界では、水分子が液体から固体へ、固体から液体へと絶えず移動しバランスを保っている。組織においても、このアイデアとフィードバックの絶え間ない循環が必要不可欠なのである。

リーダーの真の役割とは、自らが素晴らしいアイデアを出すことでも、既存事業の数値を細かく管理することでもない。隔離された芸術家と兵士の間に立ち、両者の言葉を通訳し、アイデアが淀みなく行き来する環境を整備することである。芸術家の生み出したプロトタイプを兵士の厳しい目にさらし、兵士が見つけた市場の課題を芸術家へと持ち帰る。この対立する二つのグループ間の橋渡しをスムーズに行うことこそが、リーダーに課せられた最も重要で困難な任務なのだ。

異なる価値観の架け橋となれるか

あなたが今、新しいプロジェクトを進める上で、既存の部署からの激しい反発や無理解に苦しんでいるとしたら、それは相手の能力や性格が劣っているからなのだろうか。それとも、芸術家と兵士という根本的に異なる役割と評価基準を持つ者同士を、通訳なしで直接対決させてしまっている構造に原因があるのではないだろうか。私たちが複雑な組織の中で真の成果を上げるためには、自分と異なる価値観を排除するのではなく、その違いを組織の生存に不可欠なものとして受け入れるマインドセットが不可欠である。

自分とは異なる強みを持つ人材の思考回路を理解し、対立するグループを統合するための確かな実践書として、既存事業の成功がなぜ破壊的イノベーションを阻害するのかを解き明かした、クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』へと手を伸ばしてみてはどうだろうか。芸術家の創造性と兵士の規律、その両方を等しく愛し、システムとして繋ぎ合わせること。そのリーダーとしての客観的で冷静な振る舞いが、停滞した組織にダイナミックな相転移を引き起こすはずだ。

『LOONSHOTS』シリーズ (全6回)

組織の停滞を文化のせいにするな【『LOONSHOTS』1/6】
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