父と過ごせる回数を数えたことがあるか【『The 5 Types of Wealth』2/6】
残り時間はどれくらいか、計算したことがあるか
両親と過ごせる残り回数を数えたことがあるだろうか。もし毎年一度しか会っていないとして、両親が60代半ばだとすれば、残された時間はわずか15回かもしれない。この計算が、人生を大きく変えるきっかけとなる人もいる。
『The 5 Types of Wealth』著者で作家・起業家・投資家であるサヒル・ブルームは、現代社会において人々が金銭的な富ばかりを追い求め、真に大切なものを見失いがちであると指摘する。同氏は、人生を豊かにする五つの富を提示し、その一つである「時間の富」の重要性を深く掘り下げている。
私たちは皆、時間の有限性を知っているつもりでいる。しかし、実際に愛する人々と過ごせる残り時間を具体的な数字として計算すると、その衝撃は計り知れない。本記事では、この時間の富に焦点を当て、その三つの柱を理解し、日々の時間の使い方を見直すことで、より意図的に人生を設計する方法を探る。
時間の富を築く三つの柱「意識」「集中」「管理」
同氏は、時間の富を築くためには三つの柱が不可欠だと説く。それは「意識(Awareness)」「集中(Attention)」「管理(Control)」である。
まず「意識」とは、時間の有限性、はかなさ、そして最も貴重な資産としての価値を深く理解することだ。この意識が行動を促す。たとえば、同氏の知人の事例が紹介されている。その知人は、母親が病気になったことをきっかけに、母親と過ごせる残り時間を計算した。年に数回しか会っていなかった彼は、この計算によって残された時間が限られていることに気づき、より頻繁に母親を訪ねるようになったという。その結果、彼は母親との貴重な思い出を数多く作ることができたとされている。
次に「集中」とは、本当に重要なことに意識を向け、それ以外の要素を排除する能力である。現代社会は情報過多であり、私たちの集中力は常に奪われがちだ。この「アテンション・レジデュー」と呼ばれる現象は、あるタスクから別のタスクへ注意を切り替える際に、前のタスクの残滓が残ってしまい、新しいタスクのパフォーマンスが低下することを指す。集中力を高めることで、少ないインプットでより大きなアウトプットを生み出す「非対称な進歩」が可能になる。
そして「管理」とは、自分の時間を所有し、どのように使うかを選択する自由を指す。意識と集中がこの管理の土台となる。時間の有限性を意識し、重要なことに集中することで、私たちは自分の時間を意図的に設計し、支配できるようになる。単に時間を「消費する」のではなく、時間を「創造する」存在へと変わることができるのだ。
カレンダーで「エネルギー」の流れを可視化する
自分の時間の使い方を理解し、最適化するために、同氏は「エネルギーカレンダー」という手法を提案する。これは、自分のカレンダーが現在の価値観をどのように反映しているかを可視化する有益なツールである。
具体的な方法は次の通りである。まず、一週間、毎日終了時に自分のカレンダーに記録された活動を色分けする。 「緑」はエネルギーを生み出す活動、「黄」は中立的な活動、「赤」はエネルギーを奪う活動だ。直感に従い、活動後にどう感じたかで色を付けていく。
一週間後、カレンダー全体を俯瞰し、どのような活動がエネルギーを生み出し、奪い、あるいは中立的であるか、共通の傾向を特定する。これに基づき、今後の時間の使い方に関する行動計画を立てる。エネルギーを生み出す活動は優先して増やし、中立的な活動は維持または委任を検討し、エネルギーを奪う活動は委任、削除、あるいは調整して負担を軽減する。このプロセスによって、私たちは「エネルギーを生み出すタスク」と「エネルギーを奪うタスク」を明確に仕分けし、カレンダーをより理想的な時間の反映へと導くことができる。
「忙しい」の罠を避け、時間を意図的に設計する
現代社会では、「忙しい」が称賛の証となり、ストレスを抱えることが一種のステータスシンボルとして認識される傾向がある。しかし、同氏はこの「忙しさのパラドックス」こそが、時間の富を奪い、私たちを「時間の貧困」へと追い込む元凶だと指摘する。
私たちは常に、メール、SNSの通知、会議、仕事の締め切りといった外的な刺激に引きずられ、注意が散漫になりがちである。その結果、一日中動き回っているのに、何も進んでいないような感覚に陥ってしまう。これを同氏は、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する「赤の女王効果」になぞらえている。つまり、同じ場所にとどまるためには全速力で走らなければならず、先に進むためにはその2倍の速さで走らなければならないという状態だ。
この罠から逃れるためには、時間を意図的に設計することが重要である。やるべきことリストに頼るのではなく、カレンダーを使い「タイムブロッキング」を導入するのだ。時間を特定の活動のために区切って割り当てることで、集中力が高まり、本当に重要なタスクに深く取り組むことができる。同氏は、仕事の時間を「管理時間」「創造時間」「消費時間」「思考時間」の四つに分け、創造時間や思考時間といった「非対称な進歩」を生む活動に意図的に時間を割り振ることを推奨している。カレンダーが、私たちがどこへ向かっているかの羅針盤となるのである。
時間を取り戻すことはできない。今日、何に時間を使うか。
時間は、お金とは異なり、一度失えば二度と取り戻すことはできない。これは、私たちの人生において最も厳しく、かつ揺るぎない真実である。親、子供、友人、パートナーといった愛する人々との時間は、私たちが想像するよりもはるかに短い期間で終わりを迎える。一般的に、親や兄弟姉妹、子供たちと過ごす時間は、人生の特定の時期にピークを迎え、その後は減少していく傾向がある。
この「残り回数」を意識することこそが、時間の富を築く旅の出発点となる。愛する人々と過ごせる時間が限られているという現実に直面すれば、日々の選択が変わるはずだ。今日、何に時間を使うか、誰と過ごすか、どのような活動に集中するか。その一つ一つの決断が、将来の人生を形作るのだ。刹那的な喜びや社会的なプレッシャーに流されることなく、自分の価値観に基づいた意図的な時間の使い方を実践することで、後悔のない豊かな人生を築くことができるだろう。
そうした時間の使い方を深く考えたい方には、『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン著)を手に取ってみてはどうだろうか。限りある時間をどう生きるか、日々のタスクや不安にどう向き合うか、本書が具体的なヒントを与えてくれるはずだ。
Kの視点
「親に会えるのはあと15回」という数学は確かに鮮烈だが、原書はこの計算を独自発見のように扱う一方、定式の前提──年1回・対面のみ──の脆さは検証していない。実際にはビデオ通話、短時間訪問、家族グループチャット、孫を介した間接的な接触など、「会う」の定義を広げれば残り回数は数百倍に膨らむ。この単純化された数学を行動変容の起爆剤とすることに反対はしないが、本気で時間設計をやるなら、まず「誰と・どのチャネルで・どの密度で接触したいか」を分解する作業が必要であり、本書はその粒度を提供しない。
本文後半の「タイムブロッキング」と「集中時間の4分類」は、カル・ニューポート『Deep Work』(2016)の Deep/Shallow Work 区分の拡張だが、原書はそのクレジットを明示しない。同様に「Attention Residue」はソフィー・ルロワが2009年に発表した心理学概念であり、本書のオリジナルではない。これらの先行研究を踏まえ、本書は「実践ガイド」として読み、概念史としては読まないのが正しい使い方だろう。
日本市場の角度では、本書の「時間を取り戻せない」というモチーフは、日本人読者にはオリバー・バークマン『限りある時間の使い方』のほうがはるかに刺さる──というのが正直なところだ。バークマンが提示する「4000週間しか生きられない」というフレームは、本書の「親と15回」より射程が広く、退屈・無聊・思いどおりにならない時間といった「使いきれなさ」自体を許容する哲学に踏み込んでいる。本書が「時間を所有・管理せよ」と説くのに対し、バークマンは「所有を諦めよ」と説く。両方読んで自分の立ち位置を決めるのが推奨ルートである。 — K