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草の根の波紋が巨大組織を変える【『Tribal』4/6】

kotukatu
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上からの改革が必ず失敗する理由

あなたは、経営陣から突然発表された「新しい組織ビジョン」や「働き方改革」のルールが、現場にまったく定着せずに立ち消えになっていくのを見たことがないだろうか。効率や費用対効果を追求する現代のビジネスにおいて、意思決定権を持つリーダーが上から一気にルールを変更する「ショック療法」は、最も手っ取り早い解決策のように思える。

しかし、人間は機械の部品ではない。昨日まで信じていたルールを今日から突然変えろと命令されて、心からそれに従うことができる組織など存在しない。上からの強権的な押し付けは、反発を生むか、あるいは表面的な面従腹背を引き起こすだけである。私たちが本当に組織や社会の文化を変えたいと願うなら、強引なトップダウンでも、ただ不満を叫ぶだけの無秩序なボトムアップでもない、文化が波及する「真のメカニズム」を理解しなければならない。

怒りだけでは変わらないオキュパイ運動の教訓

『Tribal』著者でコロンビア・ビジネス・スクール教授のマイケル・モリスは、文化変革が成功する条件と失敗する条件を、社会運動の事例を用いて鮮やかに分析している。同氏は、二〇一一年に起きた「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動の失敗を指摘する。経済格差への怒りから始まったこの運動は、瞬く間に世界中へ広がったように見えた。しかし、明確なリーダーを持たず、ただ不満を共有するだけの無秩序な集団であったため、具体的な制度の変革に結びつくことなく急速に縮小していった。

一方で、同氏が成功例として挙げるのが、同性婚の合法化運動である。この運動は、最初から国や法律という巨大な壁に直接ぶつかっていったわけではない。まずは家族や友人、職場の同僚といった身近なコミュニティの中で、ピア本能(仲間への同調)に働きかける「草の根」の対話を粘り強く続けた。身近な人がカミングアウトし、それに同調する人が少しずつ増えていくことで、社会の「標準」という見えない空気が徐々に書き換えられていったのである。文化の変革は、上からの命令でも、広場でのシュプレヒコールでもなく、隣の人間との一対一のつながりという小さな波紋からしか広がらないのだ。

GMとRedditに見る分水嶺

この波及メカニズムは、企業組織の改革においても全く同じ構造を持つ。同氏は、巨大ネット掲示板であるReddit(レディット)と、巨大自動車メーカーであるGM(ゼネラルモーターズ)の対照的な事例を挙げている。Redditの暫定CEOに就任したエレン・パオは、サイト内の有害な誹謗中傷文化を一掃しようと、問題のあるフォーラムを強制的に閉鎖し、強権的なトップダウンのショック療法を断行した。その結果、ユーザーの猛烈な反発と暴動を引き起こし、彼女は辞任に追い込まれてしまった。

対照的に、GMのCEOに就任したメアリー・バーラは、異なるアプローチをとった。彼女は、何ページにもわたる細かく官僚的な従業員の服装規定マニュアルを廃棄し、「適切な服装をすること(Dress appropriately)」というたった二つの単語に変更した。これは上からの強制ではなく、「何が適切か」の判断を現場の各マネジャーとチームの対話に委ねる草の根の改革であった。この小さな権限移譲が、現場に「自分たちで文化を作る」という意識を目覚めさせ、巨大で硬直化していたGMの企業文化全体に、確実な変化の波紋を広げていったのである。

草の根の波を起こす小さな拠点

あなたが今、自分の職場やチームの古い体質を変えたいと願いながら、声が届かずに無力感を感じているのだとしたら、それはアプローチの方向が間違っているだけだ。経営層に向けていきなり正論をぶつけたり、ルールを強制的に変えようとしたりするショック療法は、周囲の防衛本能を刺激するだけで終わる。私たちがなすべきことは、まず自分の目の前にいる数人の仲間との間で、新しい「標準」となる小さな合意を作ることである。

そのための実践的な一歩として、会議室の壁に3Mのポスト・イット イーゼルパッドのような、チーム全員が自由に意見を書き込める巨大な模造紙を広げてみてはどうだろうか。トップダウンの完成されたプレゼン資料を見せるのではなく、あえて未完成な余白を用意し、現場のメンバー自身の言葉で「私たちの新しいやり方」を書き出していく。そうして生まれた小さな部署での成功体験や新しい空気は、やがてピア本能を通じて隣の部署へ、そして会社全体へと、どんな強権的な命令よりも確実に伝播していくはずだ。

『Tribal』シリーズ (全6回)

あなたは自分の意志で動いていない【『Tribal』1/6】
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貢献の物語が組織を突き動かす【『Tribal』2/6】
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伝統という名の見えない支配【『Tribal』3/6】
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対立は本能ではなく構造の問題だ【『Tribal』5/6】
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部族本能を味方につけた者が勝つ【『Tribal』6/6】
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